ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 103

☆ お気に入りブーツ造ります☆

2006.06.06号  



大井町にある小さな靴屋さんが、まもなく創業80年を迎えるのを機に、ジョッキーブーツ(騎手が履く長靴)造りの技術を生かしてオーダーメードブーツの受注販売を始めた。
JR京浜東北線、東急大井町線、りんかい線が利用できる大井町駅から光学通りを、横須賀線や湘南新宿ラインを利用する西大井駅に向かった中程にあり、車で通ると見過ごしてしまいそうな小さな店である。
「布施靴店」は1927年に新宿角筈で開業した。35年には渋谷の幡ヶ谷へ移転し、この頃に陸軍病院の軍医学校から軍靴の依頼を受けて長靴製造を始める。その後は近衛師団の御用商人に指定され、守備隊司令官の栗林中将の軍靴など多数を製造するようになる。
二・二六事件の時には近衛師団司令部に自転車で納品に行く際に、決起した反乱軍と遭遇して、詰め所で待機させられたこともあったという。
45年に終戦となり、競馬界に復帰した調教師の勧めによりジョッキーブーツの製造をするようになった。52年には「東京シティ競馬」の地元である大井町に移転し、ジョッキーブーツを造り続ける専門メーカーとなる。


「勝負靴」と呼ばれるジョッキーブーツは、エナメル革で造られており、一足400弔曚匹僚鼎気世箸いΑ6デ呂竜則でジョッキーブーツの上部には「化粧革」を巻くことが決められており、騎手達は自分好みの化粧革を選び、それぞれが自己主張をしているという。
レースの時には腰を浮かせて競走馬に跨っているため、騎手達のブーツに対するこだわりは強く、思い入れは特別なものがある。「丈夫で軽く、履き易すく」は勿論のこと、必ずリクエストするのは「裸足のように感じるブーツ」であるという。
騎手達一人一人のサイズは千差万別で、左右の大きさや甲の高さ、膝の高さやふくらはぎの太さなども違うため、多くの採寸個所か必要となっている。
このように騎手達の微妙な要望に応える技術が信頼につながり、一度オーダーした騎手達は必ずリピーターとなっている。


東京・品川区勝島に「東京シティ競馬(TCK)」の呼称で呼ばれている大井競馬場がある。大井競馬場では、ギャンブルとしての楽しみだけでなく、食事が楽しめるレストラン(ダイヤモンドターン)や芝生の上で手作り弁当を親子で広げることもでき、ナイター競馬も楽しめるアミューズメントスポットとなっている。
50年に八王子競馬の代替として開催された。54年から 73年までは大井オートレース場も
併設されていたが、現在では群馬県に移転して伊勢崎オートレースとして開催している。
大井競馬場の管理者は東京都競馬株式会社で、競技主催者は特別区競馬組合である。73年までは東京都も主催していたが、共産党が推す時の美濃部知事の政策で撤退した。
これまで大井競馬場からは、いろいろな話題やエピソードが提供されている。
70年代のアイドルホースで、歌にもなったハイセーコーのデビュー地でもある。86年には照明設備が設置され、日本で初めてナイター競馬が開催された。96年にはスーパーオトメが厩舎から逃走し、首都高速1号線の鈴が森出口から逆走して高速道路を走ってしまった。97年には白毛馬のハクホウクンが、白毛馬として初めての勝利を飾っている。
05 513日の第2レースでは 1300 390円の、地方競馬史上の最高額配当がでた。
02 817日の第8競争にも 975 9280円がでており、地方競馬では1位・2位の高額配当かでた競馬場となっている。ちなみに中央競馬では、04 4月の福島競馬場での 1014 9930円が最高額配当である。


布施靴店を経営するのは行康氏(64才)、栄三氏(61才)、好章氏(57才)の三兄弟で、祖父の代からの暖簾を守っている。今ではジョッキーブーツを造っている企業は国内に数軒しか残っておらず、近年は地方競馬を主催する地方自治体が、財政難で閉鎖する場合が多くなっており、騎手達からの注文も減少傾向にあるようだ。
30年ほど前から三兄弟でジョッキーブーツ造りをやってきて、陰ながら競馬界に貢献してきたと自負する兄弟が、60才前後の年齢になって新たな挑戦を試みはじめた。
一般顧客向けのブーツを造ったところ、口コミで大きな反響を得たため、本格的にファションブーツの受注販売に乗り出した。ジョッキーブーツ造りで培った技術をベースに、素材の柔らかさやしなやかさ等の質感、40色近い豊富なカラーと防水性に優れた材料、化粧革や刺繍模様などのデザイン、冬暖かいボア付きなどで、履き易さとファション性をアレンジしてくれる。アフターサービスとして、体重の増減や足のサイズ変化に応じた微調整もしてくれる。店内では商品サンプルを見ながら、親切丁寧な相談にも応じている。
行康氏は「弟二人が店の事をやってくれるので、靴造りに専念出来る」と言えば、栄三氏は「兄の造る靴は縫い目がしっかりしているから、靴底が剥がれることがない」と話し、好章氏は「お客さんの注文に応えながらデザインを考えていると、いろいろな発見があってやりがいがある」と、ますます意気盛んな三兄弟である。
価格は消費税込みで合成皮革なら二万八千円から、本革で四万八千円から注文を受けてくれる。一足づつの手作り品のためシーズンには込み合うので、早めの注文が助かるとか。
三人の明確な役割分担と絶妙なコンビネーション、それと誠実で暖かい人柄が生み出す「お気に入りのブーツ」は、街の片隅で隠れたブランド品となっている。




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