ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 111

☆ 進路は我が道☆

2006.08.01号  


薄型テレビや携帯電話機などのデジタル家電が花盛りである。それらに使われる半導体などの設備投資も目白押しである。大手電機メーカーが一見華やかに見えるデジタル関連の大型投資に走るのを横目に、三菱電機はデジタル分野を縮小し、地味だが自社の強みであるファクトリーオートメーション(FA)機器や自動車機器、国内シェアトップであるエレベーターやエスカレーターなどの昇降機分野へ経営資源を集中させている。
重電システムや情報通信システムなど、6つの事業セグメントのうち、今後の安定成長の
キーとなるビジネスは、FA機器と自動車機器からなる産業メカトロニクス事業である。
三菱電機は選択と集中の戦略が奏功して、05年度の産業メカトロニクス事業売上高は、FA機器と自動車機器がそれぞれ 4000億円以上稼ぎ、合わせて 8600億円になる。この事業の売上比率は 21.3%だが、営業利益は 960億円で 52.2%を占め、営業利益率は 10%を超える会社の屋台骨となる事業に育っている。
728日に発表された 064−6月期連結決算では、半導体や薄型パネルメーカーの設備
投資が追い風となり、FA機器などが好調に推移した。01年に四半期業績を開示して以来、第一四半期では過去最高益を達成した。売上高は 11%増の 8215億円、営業利益は前年同期比 94%増の 405億円を記録した。
073月の通期では、原油などの素材高や海外の景気動向を見極めるため、従来予測は据え置いたが、五期連続の連結営業増益を達成するのは確実な見通しである。
成長性・収益性・健全性のバランス経営の実践で、株価も 5年半振りに千円台をつけたり、日立製作所・東芝の総合電気大手三社の中では、もっとも高い株価を維持している。

成長分野である自動車関連機器事業においても、 08年度までの 3年間に 230億円を投
じて、自動車エンジン部品工場の建設を発表した。バッテリーを充電するオルタネーターと、エンジン始動時に使うスターターの受注増に対応して生産能力を増強する。05年度、オルタネーターは年産 900万台分、スターターは 1100万台分だった生産能力を、それぞれ 1400万台分に増やす。 両製品の売上高も現状の 1000億円から 1400億円規模に拡大する計画である。
自動車の電子化が進む中、オルタネーターには燃費効率の向上、スターターには小型軽量化が要求されている。総合電気メーカーとしての設計能力や、生産技術を生かして事業を拡大し、デンソーや独ボッシュなど既存の大手と渡り合っている。米中などへの海外供給も強化して、市場シェアを現在10%から20%以上にまで引き上げる計画である。
カーエレクトロニクス分野においても、パワーステアリング事業が世界シェア45%を誇っている。これまでは小型車中心であったが、中大型車も油圧式から電動式になる傾向があり、このマーケットにおいてもシェア獲得を目論んでいる。BRICs向けなど自動車市場が急拡大するなか、自動車関連機器事業の更なる拡大を目指している。

名古屋市中心部のナゴヤドームのすぐ近くに、三菱電機の名古屋製作所がある。
三菱造船(現 三菱重工業)の電気部門を母体として 1921年に三菱電機が発足した。名古屋製作所は独立 4年後に建設した初めての自前工場である。国内最大の 30万平方団兇
工場敷地の一角にある、築 80年を越す生産棟で国内シェア一位の放電加工機と、二位の
レーザー加工機の生産がおこなわれている。
名古屋製作所はモーターからアイロンや電気釜などの家電製品へ生産品目を増やし、新たに出来た工場へ生産品目を移管する、母なる工場の役割を担ってきた歴史を持つ。現在でも全社の連結営業利益の四割を稼ぎ出すFA事業の主力工場となっている。
この数年は国内製造業の設備投資の回復で、業績は好調に推移しているが、ITバブル崩壊後は需要が半減する製品もあり大きなダメージを受けた。その教訓から生産効率の追求が工場内で徹底されてきた。放電加工機では過去 2年間でリードタイムの 3割短縮を実現
した。加工機の機種によってはプラットフォームの構造を共通化して、受注後 3ヶ月の納期を 2ヶ月に短縮するなどの成果もあげている。部材共通化によるコスト削減メリットを価格に反映させ、従来よりも性能をアップさせ、売値を下げる新製品も出てきた。
金型などの主要部材を同じ敷地内で内製化する事で、放電加工機のソディックやレーザー加工機のアマダなどの、ライバルに対する競争力も維持している。
金型などの加工精度を左右する駆動装置であるACサーボモーターや、加工機の頭脳となる数値制御装置も国内シェアではトップを走っている。
最近の三菱電機は電気メーカーというより、機械メーカーとしての印象を強くしている。

一般にFA総合メーカーと呼ばれているのは、シーケンサーに代表される制御装置と通信制御でディファクトスタンダードを握っている企業である。三菱電機と米ロックウェル社、独シーメンスの三社である。国内のシーケンサー市場では三菱電機が6割近いシェアを持ち、半導体や液晶工場の生産設備には欠かせない制御装置となっている。
名古屋製作所の一角にあるeファクトリーと呼ばれるACサーボモーターの生産ラインには、トヨタを始めとする国内を代表するような企業が工場見学に日参している。
生産ラインの中枢となるシーケンサーが、通信制御の要となるパソコンやサーバーで構成される情報システムに、リアルタイムでデータを送り、稼働状況を監視することができる。
eファクトリーの設備稼働率は、旧来の2倍近くに向上し、不良品率は半減している。
しかし、好調なFA事業においても営業利益率は 10%台半ばであり、30%から 50%近くの営業利益率をあげるファナックやキーエンスには遠く及ばない。両社のビジネスモデルと比較すると、高付加価値を獲得するノウハウや、コンポーネントの単品ビジネスから脱却する必要など、超えるべきハードルはいくつもある。言い替えると成長余力がまだまだ大きいことにもなる。
昨年 11月にはさいたま市に「三菱電機メカトロソリューションセンター」を開設して、
レーザー加工機や放電加工機を使って、サンプル加工を実演している。今後は同様な拠点を西日本や中部方面でも開設し、競合他社との差別化を図る予定である。シャープが太陽電池や液晶テレビで独自のビジネスモデルを確立しようとしているように、三菱電機では産業メカトロニクス事業にターゲットを絞り込んだようである。
デジタル分野で、1000億円単位の大型投資を競い合っている他の大手電機メーカーとは一線を画し、我が道を行く三菱電機の独自路線が好業績につながっている。




<< echirashi.com トップページ     << ビジネスコラムバックナンバー