ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 115

☆ ワインとノーマンさん☆

2006.09.05号  


メルシャンは 1877年(明治10年)に設立された日本最古のワイン会社を継承し、国産ワ
インの品質向上とマーケットの拡大をリードしてきた。高級ワイン「シャトー・メルシャン」や、庶民が日常的に楽しめる「ボンジュール」などを製造販売している。193412月に創業した我が国を代表する、ワインを始めとした酒類における総合メーカーである。
国産ワイン発祥の地である山梨県勝沼町にある「メルシャン勝沼ワイナリー」からは、メルシャンの看板商品であるシャトー・メルシャンが産み出されている。このシャトー・メルシャン・シリーズは国際ワイン・コンクールでも数々の金賞を受賞し、国際的にも高い評価を得ており、日本を代表するワインとして日本航空のファーストクラスの、機内サービスに長い間使用されてきた。
長年に渡って積極的に研究開発にも取り組んでおり、日本独自の「甲州ぶどう」に「甲州きいろ香」で新境地を開いている。仏ボルドーに「シャトー・レイソン」米カリフォルニアに「マーカム・ヴィンヤーズ社」を所有し、醸造技術の蓄積をおこなっている。

メルシャンでは蓄積した技術と伝統をベースに、世界各国の銘醸ワインの輸入販売も拡大している。99年からはオーストラリア・ワイン「グレッグ・ノーマン・エステート」シリーズを販売しており、0111月からは「グレッグ・ノーマン・エステート スパークリングワイン」「グレッグ・ノーマン・エステート ライムストーン シラーズ」がラインナップとして加わった。
グレッグ・ノーマン・エステート・シリーズは、世界的に有名なゴルフプレーヤーであるグレッグ・ノーマンが、オーストラリアの銘醸ワイナリーであるウルフ・ブラス社との、ジョイントベンチャーにより造り上げたワインである。このシリーズは米国マーケットにおいて、リーズナブルな価格帯であるオーストラリア・ワインのカテゴリーで、最も成功したと言われているブランドである。
グレッグ・ノーマン・エステート スパークリングワインは、米国最大のワイン雑誌であるワインスペクテイターで高い評価を受け、品質の良さが実証されている。グレッグ・ノーマン・エステート ライムストーン シラーズも、オーストラリアの人気品種であるシラーズらしさが出た赤ワインで、砕いたカカオの香りを有し、しなやかで骨格のしっかりしたワインに仕上がっている。グレッグ・ノーマンが自らぶどう畑に頻繁に足を運ぶという情熱が、素晴らしいワインを創っているようである。

55年生まれのオーストラリア・クイーンズランド出身であるグレッグ・ノーマンは、76
年に 21才でプロ入りを果たした。16才の時に母親からプレゼントされた 2冊の、ジャック・ニクラスの本でゴルフを覚えた。天賦の才能は 5年後に豪州ツアーにデビューし、その年に早くも初優勝を飾っている。83年からは主戦場を米国を舞台に、PGAツアーに本格参戦する。ホワイトシャークのニックネームで一躍注目を集め、ジャック・ニクラスが衰え、タイガー・ウッズが登場するまで、人気と実力で世界のゴルフ界を牽引してきた。
グレッグ・ノーマンはメジャー四大大会の全てで、プレーオフに敗れた経験を持つただ一人のプレーヤーである。96年のマスターズでは 2位と 6打差の単独首位で最終日を迎えながら、最終ラウンドで 6オーバーの 78をたたき、優勝したニック・ファルドに 5打差をつけられて大逆転負けをする悲劇の主人公も演じた。しかし、86年と93年の全英オープン制覇を含め、PGAツアーで 20勝、世界各国におけるツアーで 68勝を挙げた名選手である。
86年と90年にはPGAツアーの賞金王にも輝いている。また、通算 331週間も世界ランキング一位になった記録もある。日本のツアーでは89年の中日クラウンズ、93年の三井住友VISA太平洋マスターズで優勝を飾っている。
グレッグ・ノーマンはプロゴルファーから実業家へと華麗な転身を遂げた。総資産は 2億ドルにのぼり、年間収入はプレーヤーとして30年間で稼いだ金額を凌ぐと言われている。
ノーマン・コレクションはスポーツ、ゴルフウェアーから、アクセサリーまで多岐に及び、カラフルなシャーク(鮫)のロゴをつけた商品群は好調な販売増を続けている。
ノーマン・ゴルフコース社が設計したコースは、建設中も含め100を超えており、群馬県にある霞山カントリークラブは日本最初のグレッグ・ノーマン設計監修のコースである。
90年代半ばから、ゴルフコース設計が軌道に乗り始めると、不動産ビジネスにも乗りだし、不動産部門が手がけた超高級住宅の総価値は30億ドルにも及ぶという。
ワイン醸造は母国である豪州だけにとどまらず、米カリフォルニア州にまで進出した。
数年前のことである。ノーマンは所有するヨットでキューバ沖を航海しているとき、米国の沿岸警備艇の検問を受けた。その時に女性係官が「ワインで有名なグレッグ・ノーマンさんでしょう」と言った。ゴルフプレーヤーとしての輝かしい戦績を無視された事には忸怩たるものがあるが、実業家として認知されていることの証でもあった。ノーマンはゴルフだけでなく、ビジネスの世界においても超一流プレーヤーとなっていた。

メルシャンは会社創立 60周年を機に、文化・教育の振興と発展を願い、アートと自然と食の融合したミュージアムとして、メルシャン軽井沢美術館を 95年に開館した。
ウィスキー蒸留所の樽貯蔵庫群を、ルーブル美術館リシュリュー翼やパリの大統領府エリーゼ宮のリニューアルを手がけた、フランスの建築家ジャン・ミシェル・ヴィルモットの設計により改修されて誕生し、メルシャンの文化活動の象徴となっている。
蒸留所独特の佇まいと、長い年月をかけて育まれた白樺や落葉松などの木々を継承しつつ、ヴィラージュ(一つの村)をコンセプトに構成された世界が広がっている。毎年この敷地内では春から秋にかけてフランスを中心としたヨーロッパの近代・現代美術が楽しめる美術館棟、見学可能なウィスキー蒸留所、ウィスキー&ワインの試飲や、メルシャンが手がける酒類のなかでも選び抜かれた500アイテムを取り扱うメルシャン・プラザ、フランスの美術館でしか入手できなかったミュージアム・グッズや画材などを販売するミュージアム・ショップ、それにレストランやカフェなどが点在する街がレイアウトされている。
良質な水、澄み切った大気、清らかなミスト(霧)など、ウィスキー造りには欠かせない条件が揃っている浅間高原の麓であるこの地で、メルシャンは 55年から国産ウィスキーを
造り続けている。
近年は焼酎やチューハイ、カクテルなどを製造販売するほか、インドネシアのバイオ研究機関と共同で、新薬開発向け微生物資源の供給を開始しており、保有数は 1万種類と国内トップであり、将来の拡大に期待を持たれている。




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