ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 118

☆ 快走する四輪馬車☆

2006.09.26号  

1941年、ニューヨーク・マンハッタンの屋根裏で皮革工房が誕生した。コーチはマイルズとリリアンのカーン夫妻と 6人の職人達が、伝統的なレザー製品と、財布やキーケースなどの小物レザー製品を製造したのが始まりだった。コーチという名は、アメリカ開拓の象徴である大型の四輪馬車(COACH)に由来している。使い易くて品質がよく、そのうえ耐久性にも優れており、細部までこだわりの加工が施された財布や、トラベルキットが人気を呼び、アメリカ随一のブランドへと成長した。
62年、マイルズ・カーンは、野球のグローブに使われている革を使い込めば、どの程度のしなやかさを生むことができるか研究を重ねた。グローブの革に特別な加工を施すことで、柔らかく丈夫な素材となる方法を開発し、コーチとして初めてのバッグを誕生させた。
バッグのデザイナーには「女性のために何かをする」というビジョンを掲げたポニー・カシンであった。今や伝説の人となったファッションデザイナーのポニーは、アメリカン・エアラインやIBMの制服、多くのハリウッド映画の衣裳を手がけた革新的なデザイナーであった。ポニーはデザインの良さと機能性を重視した数々のバッグを発表し、コーチは多くのファンを獲得するようになった。

81年にはニューヨーク・マディソン街に最初の旗艦店をオープンさせた。96年、エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターにリード・クラッコフが就任し、「Fashion=ファッション」「Fanction=機能」「Fun=楽しみ」を打ち出し、バッグの形と機能性を最優先しながら、最先端のアイディアを取り入れ、新しい息吹を吹き込んだコレクションを世界に発信するようになった。
その後、コーチはアクセシブル・ラグジュアリー・ブランドとして、数々の洗練されたスタイルを生み出している。販売するアイテムもバッグだけでなくシューズ、アパレル、ウォッチからジュエリーに至るまでラインナップし、クラシカルなスタイルと、鮮やかな色づかいが大きな特徴となっている。
日本においては毎年消費者調査をおこなっている。最近の調査によるとハンドバッグのマーケット規模には大きな変化は見られないが、売れ筋の価格帯は 2万円から 7万円のアイ
テムで、販売数量が増加している傾向があった。コーチではこの価格帯に魅力的なアイテムを揃えるとともに、毎月数量限定の新商品を発表したり、販売方法にアクセントをつけることで、常に新しいブランド価値を生み出す努力をしている。

コーチは昨年 3月に、仏モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)から不当な営業妨害を受けたとして、公正取引委員会に対し申し立てをしていた。コーチは056月期には、日本での売上高が前年比32%も伸ばした絶好調ブランドである。対するLVMHは国内でも人気NO1のルイ・ヴィトンを傘下に持つ、世界最大のブランド・グループである。
コーチは公正取引委員会に対して、LVMHが日本の百貨店に対し、コーチの出店や増床を認めないように圧力を掛けた旨の申立書を提出した。調査を進めていた公正取引委員会は 9月になって、LVMHによる独占禁止法違反は、認められなかったとして審査を打ちきり、勧告や警告の処置を執らないとの通知を公表した。
コーチは「消費者の選択の機会を制限する行為を、認めないとする決意を表明する目的を果たした」と申し立ての意義を協調していた。一方のLVMHは「コーチの主張は根拠が無く、我々の商慣行の正しさが確認された」と声明を発表していた。
この申し立て騒動は、ドル安(昨年の1月時点で1ドル104円)も手伝って快進撃の続くコーチに対して、ユーロ高で価格が上昇しているLVMHが危機感を抱いている背景がある。この状況を踏まえたコーチが、LVMHに先手を打って、牽制球を投げたと見られる。
インポート・ブランド商品は競争激化に加え、為替の変動にも大きく影響されている。対ユーロでは円が安くなっており、すでにBMWジャパンでは、この 9月より一部の車種で値上を実施しており、仏カルティエやルイ・ヴィトンなども値上げに踏み切っている。
ちなみに、NIKKEIなんでもランキングの「主婦が使ってみたいバッグ」では、一位はルイ・ヴィトン、プラダ、エルメスの順に続きコーチがランクインしている。

日本には88年に東京へ上陸していた。01年には住友商事と折半出資でコーチ・ジャパンを設立し、02年には銀座に旗艦店をオープンさせた。それまではデパートを中心に出店していたがマーケットを見直し、直営ビジネスに転換したことが、快進撃の原動力となった。コーチ・ジャパンは設立4年で売上高を4倍に伸ばし、現在のビジネスは400億円超のボリュームになっている。
昨年5月には、コーチ・ジャパンの半数の株式を所有していた住友商事から、全ての株式
3 億ドル(当時の為替で 315 億円。住友商事では 140 億円超の売却益を得たと言われており、新たなブランド育成に投資している)で買い取り経営のフリーハンドを握った。
今年 5月には社長兼CEOのイアン・ビックリー氏に代わり、ビクター・ルイス氏を新社長に送り込んできた。ルイス氏はLVMHで、各種高級ブランド事業に関わっていた経歴がある。前職はバカラ社のプレジデント兼CEOとして北米地区を担当し、日本での滞在経験もあり、日本流のビジネスを熟知している。
日本のマーケットでは、コーチ全体の売上高の 2割を占めている。「お客様の手の届くところに店舗をつくりたい」との方針で、現在の 107店舗から 09 6月期までに 140店舗に拡大し、売上高も現在の倍にあたる800億円超と、四輪馬車の快走を計画している。
今年はコーチ誕生の65周年の節目の年にあたり、長く受け継がれてきた歴史と伝統をベースにしながら、現代に生きる女性に向けて新たな解釈を加えた「レガシー・コレクション」を発表した。923日には旗艦店であるコーチ銀座がリニューアルオープンし、06年秋の注目のコレクションが展開されている。




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