ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 120

☆ ヒートアップする秋冬商戦☆

2006.10.10号  


下着メーカーの秋冬商戦が始まっている。ナノテクノロジーを使用した素材を駆使して、保温、保湿、防臭などの機能や、体形を補正する機能など、単なる肌着としての機能にプラスアルファーの機能を争う傾向に激しさが増している。
自社の目指す機能に適した素材の調達が、商戦を左右するため、繊維メーカーと提携して素材開発を進める動きも強まっている。
トリンプ・インターナショナル・ジャパンでは、「ゲルマニュウム温泉インナー」を、今月
19日に発売すると発表した。ゲルマニュウムを織り込んだ繊維で造った下着は、遠赤外線やマイナスイオンを放出し、身体の血行をよくするとされている。この繊維には 0.4 ミクロンにまで粉砕したゲルマニュウム天然鉱石を、レーヨン素材に織り込んでおり、さらに保湿作用がある成分のコエンザイムQ10を、マイクロカプセルに閉じこめ、生地に接着して製品化した。寒く乾燥した季節に、女性が望む保温・保湿に優れた下着である。
また今季からは、定番商品となっている「セラテックナノ」に、消臭効果のある銀イオンを綿繊維に封入した活性綿を使用した。銀イオンの効果は、半永久的に保たれると言う。
この素材も下着向けとして、特別に繊維メーカーへ開発を依頼したものである。

トリンブでは激化する商戦に備え、コスト削減にも積極的に取り組んでいる。04年にトリンプ・インターナショナル・ジャパンが40周年を迎えたのを機に、記念事業として「トリンブ大東センター」の増築を開始した。05年にこれを「トリンブ静岡センター」と改称し、今年になって増床と設備の新鋭化が完了して本格稼働がスタートした。
同社最大の物流拠点となっている同センターでは「マップカート」と呼ばれる液晶画面つきの荷車を使い、34千品目の下着を、迅速かつ正確に仕分けている。受注から出荷まで、最短だと20分という効率の良さで物流費の削減に成功した。
マップカートは無線LANでホストコンピューターに接続され、店舗からの発注データはカートの液晶画面に表示される。従業員は画面を見て、受注した商品を確認、バーコードをスキャンして商品をカートに入れる。数量や商品を間違うと音声データが注意を促す。
一つの仕分けが終わると、次の商品が表示され、瞬時にセンター内の地図も表示される。
従業員はカートを押して、地図指定の商品棚へ行き、仕分け作業が繰り返される。
同センターでは現在、デジタル・ピッキング・システム(DPS)と呼ぶ仕分け方法を実験している。マップカート方式だと、1時間に180枚の商品仕分けが限界であったが、DPSでは350枚まで可能となった。仕分け精度が高まれば効率が大幅に改善する。
DPSが確立すると、一日の仕分け処理能力は13万枚が可能となり、さらに間違いも減るという。仕分けされた商品は全国6千店舗と通販顧客に配送されている。
同社の売上高に占める物流費の割合は、3.77%と全業種の平均より 1ポイント低く、同センターの稼働率を最大限に高めれば、物流費を3%以下に抑えることが可能だという。
物流の改善と平行して、販売戦略の見直しも進められている。昨年8月からは、一度店頭に並んだ商品が売り切れても補充せず、代わりに新商品を投入して、店頭の鮮度を維持する「売り切れ御免方式」を導入した。これには商品開発部門との連携が必要となり、全社的にITを駆使した事業戦略の構築が推進されている。

婦人下着の 05年度の国内販売額は前年比 0.3%減の 4 67億円(日経新聞推定シェア)
で、7年連続のマイナスとなった。大手2社のシェアが前年比 4.1ポイント増加しており、
首位ワコールが27.1%の3.8%増、二位トリンブが12.8%の0.3%増が押し上げている。
三位は量販店主体のグンゼが5.2%、四位は訪問販売主体のシャルレが5.1%、五位は通信販売主体のセシールが3.8%で、3社とも前年並みにとどまり勝敗の構図が見えてきた。
トリンプのビジネスサイズはワコールの半分以下で、伸び率も微増であったが、19年連続の増収増益を達成した。直営店「アモスタイル」を郊外のショッピングセンターなどに積極出店し、昨年12月末には前年より 30店舗多い 248店舗に増加した。前述の物流センターの本格稼働により「売り切れ御免方式」も順次展開したことで、売場の鮮度が向上し、来店客数の増加が売上増に結びついた。今後は百貨店や量販店などの販売経路別の商品政策を明確にし、ワコールに比べて弱かった百貨店向け商品の強化に取り組む考えである。
前年度は卸値ベースで、念願の 500億円を突破し、524億円の売上高となった。次の目標として 1千億円を掲げており、これを達成すればワコールの単独売上高 1282億円も視野に入ってくる。ワコール追撃の態勢が着々と整備されてきた。
一方、迎え撃つワコールは、昨年 6月に主力販路の百貨店向け基幹商品「キャミブラ ナミナミ」の、一部に不良品が発生して店頭から回収するなど、上期は苦戦を強いられた。
しかし、昨年 7月に発売した「ヒップウォーカー」は計画の倍以上である70万枚を販売。
秋冬向けの主力商品「快適ナビ」も 73万枚と好調で、シェア拡大に寄与した。そして今年
5
月には、通信販売を中心に若年層向け下着で、急成長したピーチ・ジョンの発行済み株式の49%を取得し、連携した商品開発や海外展開に乗りだした。
婦人下着全体の市場規模が縮小するなかで、高機能下着は需要拡大が見込める数少ないマーケットである。素材メーカーまで巻き込んだ商品企画競争は、ますます過熱しそうだ。

トリンプ・インターナショナル・ホールディング ケーエム・ベーハーは、今から 120
年前にドイツで誕生して以来、世界 140 ヶ国に販売拠点、55 ヶ国に生産拠点を持つ世界
最大の下着メーカーである。トリンプ・インターナショナル・ジャパンは、トリンプ・グループの一員として、1964に日独合弁企業として設立された。
国内の婦人下着業界では二位に甘んじてはいるが、技術力・情報力・企画開発力には大きな評価と期待が寄せられている。94年に「天使のブラ」、97年に「Tシャツブラ」、00年には「恋するブラ」などの大ヒット商品をデビューさせている。
吉越浩一郎社長は香港での二度を含め、外資系の会社に 6年間勤務した経験があり、86年のトリンプ・インターナショナル社設立 100周年の年に、マーケティング本部長としてスカウトされた。現職は 92年から務めている。
吉越社長は通常の社内業務においても、ユニークな施策を次々と導入している。91年には「・・さん」づけ運動の推進。「NO残業デー」の導入。「リフレッシュ休暇制度」の導入。
94年「がんばるタイム」導入。95年には石津謙介氏が提唱した「カジュアル・フライデー」
の導入などである。職制の垣根排除や業務集中力の向上など、効率改善の施策である。
吉越社長は仕事のスピードを重視する事も徹底している。業務効率を向上させることで、間接部門である本社業務をスリム化して、企業全体の経営効率を高めている。
また、仕事の基本であるデッドライン(締め切り)の 徹底厳守も掲げており、吉越社長が議長を務める早朝会議も「誰が何時までに何をするか」を必ず決めている。本来、有効で有るはずの会議が機能しないのは、デッドラインを決めていないのが原因との考えである。
午後零時半から二時半までの「がんばるタイム」も、静かな環境の中で集中力を高め、デッドラインを厳守するために、室内を歩くこと、話すこと、電話をすることも禁じている。
残業についても原則禁止で、必要な場合は認めることにして賃金も支払うが、その担当者の在籍部門は賞与予算から、その分を減額して連帯責任をとる仕組みになっている。
残業禁止は人件費の削減が狙いとの声については、女性社員が多い職場で、女性に残業を強いていると、育児時間不足が少子化の遠因になったり、結婚や出産の場合にも退社につながる可能性が高くなる。そうなると会社は経験者不足となり、社員は家族としての収入減になってしまう。それには余計な仕事を同僚に頼まないなど、自己責任の確立や、職場全体での意志表示で、NO残業が可能な仕組み造りが必要と考えている。
吉越社長は外資系企業での勤務経験が長く、合理的な考えが徹底されており、これを企業競争力に結びづける試みが続けられている。




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