ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 121

☆ 急拡大の仕組みづくり☆

2006.10.17号  

 快進撃を続けている会社の社長が豪語する。「我が社のビジネスは、競馬で云えば第四コーナーを廻ってから、一番勢いの良い馬を買うようなもの。絶対に外れない」と、急速に拡大を続けているレディース・ヤング・カジュアル・ウェアー「ハニーズ」の江尻義久社長である。ハニーズは流行に一番敏感な10代から20代の、若い女性に人気のあるファッション・ブランドで、昨年には東証一部に上場を果たし、急成長を続けている会社だ。急成長の秘密は「デザイナー=消費者」という開発コンセプトと、独自開発したSPAシステム(商品企画から販売までの製販一体)に、スピードを武器にした仕組みである。顧客層と同年齢の若い女性デザイナー達が、本社のある福島県・いわき市から毎週東京や大阪の繁華街で、同世代の女性達のファッションをチェックする。なかには渋谷109前で7時間もデザイン情報を収集し、40枚ものイラストを描き、本社に戻るのは深夜になる人もいるという。ここで流行の兆しを掴み、毎週木曜日に行われるデザイン会議で、それぞれが数十種類の商品提案をする。商品化を決定する判断基準は「自分たちが欲しいか、欲しくないか」で、出席者全員の多数決で決める。採用されたデザインは、翌日には中国や韓国の提携している工場で生産に入り、平均40日で店頭に並べられる。この手法は、商品の人気が膨らんでいくプロセスと、人気が下降するプロセスを切り捨て、人気がピークに達する瞬間だけに照準を絞って、商品を企画販売して売り切ってしまう。

 江尻社長はかって、福島で東京から高級衣料品を仕入れて、販売していたが成功しなかった。そこで「売れるモノだけを造って売る」手法を模索した結果、辿り着いた戦略だった。ファッション業界では一般的に、デザインをしてから商品が店頭に並ぶまで、半年から一年はかかると云われている。一時期大ブームをおこしたユニクロでさえ、90日かかっていると云われる。それがハニーズでは最短で30日、平均40日だという。日本の四季を考えた場合、90日と云うのは季節が変わってしまう日数である。ハニーズはその三分の一から半分以下のスピードであり、驚くべく仕組みであることが理解できる。最近はインターネットや携帯電話などの普及により、情報のスピードが格段に早くなっている。流行のファションを、いかに早く店頭に並べられるかが成否のカギである。しかも、ハニーズの商品の価格帯は1000円から3000円と低価格であるため、利幅の絶対額も少ない。因って、値引きをせずに売り切る仕組みも重要になってくる。アパレル業界ではファッション・ショーで流行がつくられ、時間をかけて販売戦略が練られ、シーズン初期に最も高い利潤で販売されるが、シーズン後半には売り切れずに在庫化してしまい、バーゲーンで処分するというのが一般的である。ハニーズでは毎週売れているデザインをリサーチし、流行を後追いしながら、店頭に商品を並べるまで、最短30日というスピードで追い越し、シーズン後半までには売り切ってしまう。後追いながら短期で売り抜けることで、在庫も抱えず一定の利潤を確保している。ハニーズでは商品を値引きせずに、販売する「正価販売率」が80%の高率となっている。アパレル業界では60%が及第点と云われているなか、10点中8点を正価で販売しているのは、突出した驚くべき数字である。

 一般によく交わされている話である。「なぜ、ファースト・リテイリング(ユニクロ)は、一時期あんなに伸びたのか?」「なぜ、ダイソーの100円ショップが、たくさんできたのか?」「なぜ、ドンキホーテが消費者に受け入れられたのか?」「なぜ、サマンサ・タバサが急成長しているのか?」と問われると、それぞれ「フリースが売れたから」「100円だから、ついつい余分に買ってしまうから」「宝探しみたいで買い物が楽しいから」「かわいいデザインのモノが、女の子でも買える価格だから」との答えが返ってくる。現象面では答えの通りである。デフレ時代の勝ち組のように言われている、これらの企業は確かに目新しくて、商品も安く販売しているが、それだけなのだろうか?ユニクロは「国内のアパレル業界で、いち早くSPA(既号176. 業態転換)を取り入れた」ダイソーは「大量発注と商品開発で、100円でこんなモノが買える珍しさを提案し、新鮮さが客を惹きつけた」。ドンキホーテは「ディスカウント・ショップに、こんなモノがあるという夢を提供した」。サマンサ・タバサは「デザインをしているセレブ達と、女の子達に近親感が持たせたから」であり、単純に価格が安いだけではないのだ。これらの企業は過去の経験からは、まったく出てこない新しいビジネスモデル、つまり新しいビジネスの仕組みを生みだしたのだ。現在の成長企業を見ていると、どこも過去に経験のない分野でビジネスを展開しており、新しい視点でマーケットを見ている。古くは、パイオニアのマイクミキシング機能がついたステレオを、スナックでプロ歌手の伴奏テープに使ったのを参考に、クラリオンが業務用に開発して命名した「カラオケ」は今や世界的な娯楽に成長し、一兆円産業となっている。コンビニの業態を創り出したセブン・イレブンは、フランチャイジーに物販の仕組みを売っている。宅配の業態を創ったヤマト運輸も、小口配送の仕組みをつくった。何れも当時には存在しない業態であった。一方、伸び悩んだり、衰退している企業の多くは、過去の経験の延長線上でビジネスを展開している。時代が変遷し、消費者ニーズが変わり、マーケットが変わり、世の中の仕組みが大きく変化しているのに、政治も法律も経済も、そしてその一端を担う我々のビジネスも、変化に追いついていない企業が多く、二極化社会の現象となっている。

 ハニーズは78年6月設立、本社を福島県・いわき市に構え、資本金33億66百万円(06年5月末現在 以下同)、社員数1285名の企業である。男性社員は60名と全体の5%にも満たない。女性社員を最大限に活用している仕組みも驚きである。企業規模の成長を見ると、設立10年後の88年は、売上高25億64百万円で37店舗、20年後の98年には約4倍の売上高104億45百万円で124店舗となっている。そして、ここ数年の成長は著しく03年154億73百万円・前年比29.4%増・190店舗、04年216億1百万円・39.6%増・283店舗、05年298億57百万円・38.2%増・405店舗、06年414億43百万円・38.8%増・544店舗と凄まじい勢いである。ハニーズの出店戦略は、イオン・マイカル・ダイエー・ユニー・イトーヨーカ堂など、大型小売店の店子としての出店が多い。パルコやJR系駅ビルなどへの出店がわずかに見られるが、単独のロードサイド・ショップや繁華街の路面店への出店形式は取っていない。資金負担や集客効率の、リスクを回避する仕組みづくりも高成長を支えている。9月にはいわき市内に新物流センターが稼働し、新旧の設備で1400店舗まで、商品供給が可能な体制も整備した。07年5月期にも150店舗の大量出店を計画している。今年1月には中国・上海のファッション・ビルに、売場面積300坪の1号店を出店した。そして、10月になっての新聞報道では、今後3年間に中国で100店舗体制を築くため、日本へ留学している中国人学生8名の新卒採用を決めたとある。この8名は服飾系学校の卒業見込み者ではなく、4年制大学や大学院の卒業見込み者であり、将来は店舗開発や企画、スーパーバイザーのプロに育てようとの計画である。このようにハニーズの急成長は、時代を先読みした仕組みづくりによって実現されている。


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