ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 122

☆ 大衆魚のブランド化☆

2006.10.24号  


秋本番である。そして、サンマの美味しい季節でもある。サンマといえば塩焼きが定番だが、最近は産地以外でも刺身で食べる事が多くなってきた。流通時間の短縮など、鮮度保持の技術が進み、生食用として販売できるようになってきた。全国屈指のサンマ漁獲量を誇る釧路市漁業協同組合は、刺身用サンマを「青刀(せいとう)」と名付けて、大衆魚のブランド化に取り組んできた。今年施行された商標法改正の動きを先取りした施策である。
獲れたてのサンマは、青光りしていて、尻尾を持っても刀のように、しなりながら立つという。それほど新鮮であるというアピールを込めて、青刀のブランド名にしたという。
サンマの漁期は 7 月から 12 月頃だが、脂がのって一番美味しいとされる 9月・10 月頃に獲れるサンマに限定して、青刀として販売している。鮮度が落ちやすいため、帰港する 6
7 時間前に捕獲し、船上で傷がなく形のよいものを選別し、海水で作った氷と一緒に発砲スチロール箱に詰めて水揚げする。

漁業協同組合では消費者の安全・安心思考に対応するため、トレーサビリテイ(生産履歴の管理)の導入も進めた。漁船に積んだパソコンに、漁船名や船主名、漁獲日時やGPS(全地球測位システム)で記録した漁獲海域などを記録する。釧路の漁港に着くと、漁獲証明書として印刷し、出荷用の箱に貼り付けている。
それぞれのサンマごとにも、こうした情報を記録したタグを貼り付けている。消費者はタグに印刷されたバーコードを、携帯電話のカメラで撮影すると、インターネット経由の情報として、サンマの生産履歴情報を見る事ができる。
青刀は競りにはかけず、東京のデパートや飲食店へ航空便で直送され、漁獲された翌日の午前中には店頭に並べられている。価格は浜値でキロ当たり 500円から 700円で取り引きされ、通常のサンマの 10倍くらいとなっている。価格に割高感はあるものの、鮮度の良さが消費者受けしており、完売状態が続いているという。 

小泉前総理の肝いりで設置された知的財産戦略本部・コンテンツ専門調査会の、日本ブランド・ワーキンググループ(座長 ウシオ電機会長・牛尾治朗氏)が起案した「商標法の一部を改正する案」が、昨年3月に閣議決定され、6月の通常国会で可決・成立した。
この法律は今年の41日に施行され、特許庁によると5月末時点で、全国から 436件の登録出願があった。なかには比内地鶏(秋田県)、喜多方ラーメン(福島県)、魚沼産コシヒカリ(新潟県)、八丁味噌(愛知県)、九条ネギ(京都府)、神戸牛(兵庫県)、長崎カステラ(長崎県)などと、知名度が高い地域ブランドがひしめいている。反面から見ると、改正前の商標法
では、地域ブランドを商標として登録するには、それだけハードルが高かったことになる。
改正法では、法人格のある農業協同組合や工業協同組合などの団体が登録を申請し、特許庁による半年程度の審査を経て、適格であれば地域ブランド(正式には「地域団体商標」)
が登録できるようになった。
また、地域ブランドは商品だけでなく、サービスでの登録も可能となった。和倉温泉(石川県)、下呂温泉(岐阜県)など、多くの温泉地の旅館協同組合も登録申請している。京都からは「京舞妓」の登録申請が出されており、審査の行方が注目されている。
特許庁では産地を保護するため、「地域ブランド」の登録を、地元生産者に限って認めることとしているため、産地以外で商売をしている業者が閉め出される可能性もでている。
数年前に東京でブームになった「讃岐うどん」を、香川県以外で作っている業者は、讃岐うどんは一般的名称だと反発している。「九谷焼」などの陶磁器の産地についても、原材料や工法を巡り、何処までを九谷焼とするか、組合同士の攻防も始まっている。
商法改正により始まった地域ブランド争奪戦は、産地の命運を賭けた戦いともなっている。

釧路市漁業協同組合が地元で漁獲したサンマの、ブランド化に乗りだしたのは、サンマの刺身が食卓に載る機会が増えて、消費者や小売り業者から、鮮度への要求が強まったことがきっかけとなった。同時にブランド化することで、イメージアップをはかるとともに、付加価値を高めることで、漁師達の収入増を確保することも狙いであった。
計画が持ち上がった当初は、漁師達から戦場と化す漁の最中に、選別して箱詰めするような面倒なことは出来ないと反対も多かった。まして、帰港前は漁師達が休憩をする時間で、この時間に作業をするのは、漁師達にとっても肉体的負担が大きかった。
組合の担当者は、釧路産サンマのイメージアップにつながることや、収入増の確保などを説明して説得にあたり、約60人の組合員の中から、4人の協力を得て実験が開始された。
しかし、一度の漁で青刀として売れるサンマは、20箱から 50箱(一箱 20匹)程度しか確保出来ず、青刀の数量確保が課題となった。シーズンの漁獲量も 5トンくらいと、サンマ全体の漁獲量(28500トン)の、ごく一部でしかなかった。
組合では昨年秋からは、福島などの本州の漁船団に協力を依頼して、釧路で水揚げして貰ったサンマを、「青鱗(せいりん)」の新ブランド名で売り出した。トレーサビリティーを省略し、コストを削減して市場で競りにかけ、浜値でキロ当たり 200円から 400円で、地元のスーパーなどで販売する事にした。最近になって釧路の動向に刺激され、厚岸では「大黒サンマ」、根室では「舞いサンマ」なども登場してきた。
各地の漁業組合の、こうした動きの背景には、漁獲量全体の落ち込みがある。釧路でもイワシの不魚などで 80年代には 130万トンもあった漁獲量が、05年には 11万トンまで激減している。今後の漁業の方向としても、コストや手間暇がかかっても、地域ブランドとして付加価値をつけ、独自化した販売戦略が欠かせなくなっている。




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