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桃太郎のビジネスコラム 126

☆ キリンの野望☆

2006.11.21号  


現在はカーデニングブームとやらで、ホームセンターなどでは花卉売場が賑わっている。
日本にある花店は小規模経営が殆どで、年間2000万円も売り上げれば優良店と云われるなかで、全国に50店舗を展開する青山フラワーマーケットの、わずか 7坪の渋谷東横店では 4億円も売上げ、母の日には2500人もの行列ができるという。
生活に余裕のある高所得者層を中心に、切り花や鉢植えを楽しむ傾向が見られ、花ビジネスは成長産業となっている。日本の花卉市場は全体で12千億円の規模である。この大半が冠婚葬祭などの業務用に使われる法人向けで、一般家庭などの個人用に出荷されるのは 3割程度となっている。しかし、世界を見渡せば花卉産業は巨大なビジネスとなっており、欧米では肉・魚・野菜に次ぐ第四の生鮮品といわれている。
このような花卉ビジネスで、いまや世界屈指の種苗メーカーとして君臨しているのが、ビールメーカーのキリンビールである。国内外の種苗メーカーを次々と買収し、切り花用種苗の販売量で世界ナンバーワンの地位を占めている。現在は中国・昆明でキクの種苗生産を開始しており、中国を生産基地として、世界市場制覇の野望に燃えている。

キリンのアグリバイオ事業では、花卉事業を重点事業の一つとして位置づけており、商品開発から生産・販売までの、一貫した事業を世界的規模で展開している。同事業では「お客様の生活を、豊かにしていく価値を創造する企業グループ」として、花のある生活を提案していく方針である。
044月、キリンビールは三井不動産の100%出資子会社で、花卉事業会社の第一園芸から、生産農家向け(営利栽培)種苗販売、種苗の品種導入・開発、種苗の生産・海外輸入等の事業部門を買収した。扱い品種はカーネーションを中心として、バラ・リモニュウム・カスミソウなどとなっている。これら事業部門の買収はキリングループの100%出資子会社であるキリン・グリーンアンドフラワーが譲り受けた。
アグリバイオ事業はバラと並ぶ世界の三大花卉であるキクとカーネーションを中心に事業展開しており、国内での花卉種苗事業の強化と、世界規模のカーネーション事業強化を目指している。カーネーションは世界販売シェア35%を握り、スプレーマムも世界販売シェア25%を誇っている。他にもバラ・ガーベラ・リルニュウムなどの切り花、世界シェアナンバーワンのペチュニアやニチニチソウなどの花壇用花卉類も販売している。

キリンビールは1116日に、ワイン市場で業界二位のメルシャンと、業務・資本提携することで合意したと発表。メルシャン経営陣の賛同を得て、友好的TOB(株式公開買付)を実施して株式の50.12%を取得し、子会社化することで合意した。
酒類市場が縮小するなかで、ワインブームを背景に堅調な業績をあげているメルシャンを傘下に収めることで、国内最大の総合種類メーカーとして経営基盤を強化する戦略である。
創業家が同じ鈴木家で、筆頭株主として12.8%の株式を保有する味の素も、メルシャンとの相乗効果が期待薄であることからTOBに応じる考えである。
キリンの買付資金総額は約 248億円となる予定。TOBが成立すれば、ワイン事業はメルシャンに、チュウハイなどの低アルコール飲料事業はキリンに、それぞれ集約する。05年のキリンのワイン出荷額は 87億円で、これにメルシャンの 295億円を加えると、売上が 400億円に達する業界首位のサントリーを追撃する態勢が整う。低アルコール飲料では2社合計が約700億円となり、国内シェア40%を超える圧倒的な支配力を持つことになる。
キリンは来年7月に純粋持株会社に移行することが決まっており、ビールを主力として低 アルコール飲料などを扱うキリンビール、ワインを主力とするメルシャン、缶コーヒーや清涼飲料などを扱うキリンビバレッジ、医薬品事業のキリンファーマ、アグリバイオ事業やその他の関連会社を傘下に置くことになり、野望達成への布石を着々と打ち出している。

花店などで売られているブーケなどの、産地表示を見ると「K」マークを見かけることが多い。この「K」マークこそが、キリンビールの表示なのだ。
90年に花卉ビジネスに参入したキリンビールは、その資本力を背景に、ヨーロッパなど世界中の種苗メーカーを次々と買収して傘下におさめてきた。その後、短期間にグループ会社40社を有する巨大種苗グループを形成している。
種苗メーカーとは、花の苗を開発して、その苗を営利栽培する生産農家へ販売する会社である。この苗の育成者権を取得し、苗を一本売るごとにロイヤリティが入る仕組みになっている。例えば生産農家がカーネーションを一本出荷するごとに、会社には1.5円から2円のロイヤリティが入ってくる。世界中で花の苗を売り、ロイヤリティを稼ぐ。これが種苗メーカー・キリンビールの実像である。
一方、主力事業であるビール関連事業では、6年ぶりに年間首位の座奪還が見えてきた。
10月に発表されたビール主要 5社の、第一から第三四半期(1〜9月)のビール関連飲料の出荷量では、キリンがアサヒを抑え、第一四半期に逆転して以降の首位を堅持した。シェアはキリンが 38.0%、アサヒが 37.3%で、その差は0.7ポイントになっている。
アサヒは今年に入ってテコ入れしている第3のビールは好調だったが、発泡酒が落ちこんで、ビール関連飲料合計では前年同期比 4.9%減となった。キリンは第3のビールが引き続き好調で、発泡酒も前年実績を上回った。ビール関連飲料合計で6.8%増となった。
キリンは15年には売上高 3兆円を目指す長期経営計画を掲げており、本業であるビールで業界再制覇で足下を固め、アグリバイオ事業やワイン事業でも国内制覇を成し遂げ、世界市場で事業展開する野望が現実のものとなってきた。





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