ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 137

☆ 女性が群がる男前☆

2007.02.13号  


昔は豆腐と云えば四角い容器に入り、製法もせいぜい絹濾しか木綿濾しと決まっていた。
それが近頃はチューブに充填されていたり、丸形の容器、楕円形の容器が二分割や三分割に割れるもの、豆乳が入っているものなどさまざまな豆腐が売られている。
暖冬とはいえ暦のうえでは立春を過ぎたばかりの冬本番である。こんな寒い季節に売れに売れている豆腐がある。お父さん達が酒の肴に奴豆腐として食すのはもちろんだが、若い女性達はプリンのように冷やして、デザートやおやつ感覚で食べるのが今風なのだとか。
サーフボードみたいな容器に入った、その名も「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」と横文字の商品名がついている。北海道産の丸大豆に、沖縄県・糸満沖の海水から造った苦汁を原料として造られている。レアチーズケーキのようなクリーミーな味わいに合わせたネーミングにしたという。ウェスタン風のカフェで、新種のスィーツ「風に吹かれてジョニー」として、コーヒーと一緒に出されたら、と想像してしまう味わいと遊び心である。
スーパーでは30円の安売り豆腐があるなか380300円と価格も一丁前だ。売り出したのは京都・南丹波に本社を構える「男前豆腐店」である。社名の「男前豆腐」は「水もしたたるいい豆腐」が由来であったとか。ブームの火付け役は38才の伊藤信吾社長だ。
一昔前では考えられなかったような、パッケージやネーミングの豆腐に、大手デパートの食品売場やコンビニでは、男前豆腐に主婦や若い女性達が群がるほどの大人気である。

同業他社が次々と廃業や倒産に追い込まれ、斜陽といわれる豆腐業界に、突如わき起こった大異変である。現在も伊藤社長自身は、こんなに売れているのが不思議だと云う。
しかし、味には絶対の自信があったので「本物の男前は、あなたを裏切ったりしない」と、商品名や社名に掛け合わせた思いが、会社のキャッチコピーにまでなっている。
スーパーの下請け製造業的な事業構造から脱却するため、豆腐という伝統的な食材に、ブランド戦略を駆使して、スーパーのバイヤーが度肝を抜く手法で成功を勝ち得た。
一昨年夏にはセレブ御用達の玉川高島屋に直営店を出店したことで、マスコミからの取材が殺到し、一気に全国区ブランドとなった。セブン・イレブンなどの大手コンビニにも進出し、一丁200円を超える男前豆腐店の、高級豆腐は一日に5万丁以上も売り捌く。
何を造っている会社かも判らない奇抜なホームページは、原始人のオジサン達ではついてゆけないが、宇宙人的感覚の若者達には大受けで大評判となっている。
従来の豆腐の延長ではなく、新しい食べ物としての豆腐を提案した。「美味しいだけでは売れない。目立つためには何が必要か」を模索し、ネーミングだけでなく、豆腐のためにオリジナル曲まで作った。消費者が描く豆腐のイメージをブチ壊し「安い豆腐には未来はない」と、高級路線を突き進すみ、消費者が「買いたくなる世界観」を創造したことが成功に結びついた。伊藤社長のマスコミへのアナウンスを引用すると、オリジナル商品で成功するには「妄想こそが創造の原点」であると言い、堅くならずに「遊びながら考える。考えて面白いこと」が一番の秘訣とのこと。自分は「それが男前豆腐だった」と云う。

061225日、三和豆友食品より一枚のニュースペーパーがリリースされた。
『弊社、三和豆友食品株式会社と、男前豆腐株式会社は別会社であり、いかなる資本関係、製造委託、交流はございません。本日現在、三和豆友食品株式会社、及び男前豆腐株式会社は、共に「男前豆腐」を製造・販売致しており、消費者の皆様に混乱を招いておりますことを憂慮し、この度、この場を借りてご説明させて頂くことと致しました。』
このように2社が無関係であることを強調し、過去の背景と今後の姿勢が続けられている。
『「男前豆腐」は弊社の従業員であった伊藤信吾氏が、弊社在籍時、そのネーミングを行い200336日より弊社、三和豆友食品株式会社より発売した商品でございます。弊社は発売時より、一部地域を除く全国で「男前豆腐」の製造・販売を継続致しております。
男前豆腐株式会社は、先の伊藤信吾氏が弊社在籍中に設立した会社でございます。(設立時は男前豆腐有限会社)伊藤氏は、同社を設立後、関西圏において同社より「男前豆腐」を製造・販売を開始致しました。以上の理由から2社で「男前豆腐」を製造・販売する結果となりましたが、200336日の発売時から「男前豆腐」を製造・販売しております弊社におきましては、発売当初より味・品質も維持しておる中で製造中止を行う理由は無く、現在及び今後も継続して発売当初より変わらない味・品質の「男前豆腐」を製造・販売して参ります』
そして今後の取り組みを次のように結んでいる。
『弊社は「男前豆腐」の味を最初に生みだした会社であり、現在もなお、美味しい豆腐を作りたいという情熱は社員一同、片時も忘れてはおりません。また「男前豆腐」をはじめとする美味しく高品質なお豆腐を開発・製造・流通販売する能力を、いまなお強く保持し、発売時から変わらない「男前豆腐」をはじめとする美味しいお豆腐を作り続けております。
今後も、皆様方に美味しくて安心してご賞味頂けるお豆腐を作り続けて行きたいと存じます。何卒、今後とも三和豆友食品株式会社のお豆腐を宜しくお願い申し上げます。』

伊藤社長は最初から男前豆腐店としてスタートしたわけではなかった。始めは父が経営者となっていた茨城県・古河市にある、89年に設立された三和豆友食品が出発だった。
従業員数350名、売上高60億円(05年度)の量産豆腐メーカーで、生産量は全国でも十指に数えられる程の大型工場であった。伊藤社長は大学卒業後、シンガポールの貿易会社、東京・築地にある水産会社勤務を経て93年に入社した。そこで得た「売場を知っている営業担当の人こそ、商品開発を担当すべき」が教訓となり、この延長線上で「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」を創り出してヒット商品となった。しかし、出る杭は打たれるがごとし、経営路線を含めた考え方の違いや感情的な縺れなどもあり、「どうせなら豆腐の本場である京都で、どれだけ通用するか試したくなった」と退社する。
053月に男前豆腐店を設立し、9月に会社を京都府・南丹波へ移転した。
ジョニー効果で売上高も初年度でいきなり20億円と、豆腐メーカーとしては一丁前の規模となった。メイン商品の「男前豆腐」は、誰もが気が付きそうでいて、商品化されていなかった水切りをつけた二重底のパッケージになっている。商品名には「喧嘩上等やっこ野郎」「喧嘩上等湯豆腐野郎」や、豆腐は白との常識を覆す「ブラウンジョニー」、煮物によくあう「がんも野郎」など奇抜な発想で商品造りを展開している。
奇抜なネーミングやパッケージの、遊び心が受けただけのブームでは、一過性ので終わってしまう。快進撃の裏には、美味しさは勿論のこと、商品としての高い品質が認知されているからこそ、女性客のリピーターが群がるのである。




<< echirashi.com トップページ     << ビジネスコラムバックナンバー