ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 14

☆ イメージ戦略☆

2004.09.07号  

 “You Must Remember This ・・・” と云う唄いだしで始まる”As Time Goes By” という名曲をご存じの方も多いと思います。第二次大戦下戦乱を避けて渡米しようとする人々が集まる、フランス領モロッコの首都カサブランカを舞台に創られた、映画「カサブランカ」の主題歌です。サム(ドゥリー・ウィルソン)が随所で、弾語りで唄っていました。リック(ハンフリー・ボガート)とイルザ(イングリット・バーグマン)のラブロマンス映画であり、レジスタンス指導者ラズロ(ポール・ヘンリード)がナチスドイツ軍と戦う反戦映画でもあり、見方によっては祖国を思う人々の生き方も感じられます。又、クロード・レインズ演じる警察署長とリックの友情など、男の任侠を思わせる映画でもありました。マイケル・カーチスが監督した大変奥行きの深い珠玉の名作です。

 この映画は1943年制作のアメリカ映画です。筆者もまだ生まれる前に創られた作品ですが、世代を越えた今でも、何度観ても感動を覚える名画で、世界的に大ヒットしました。ラブロマンスのバイブル的な作品で、石原裕次郎の映画にも「カサブランカ」をモチーフしたと思われる作品があります。映画の幾つかのシーンがテレビCMとして製作され、オンエアされていた事もあります。沢田研二も唄にしていましたね。“Here’s Looking at you Kid” を「君の瞳に乾杯」なんて、誰が翻訳をしたのか知りませんが、素晴らしい翻訳ですよね。霧につつまれた空港でトレンチコートを着たリックがイルザを飛行機に乗るように説得する場面で ”Maybe not today、 Maybe not tomorrow、 but soon. And for the rest of your life”「今は良くても、一生後悔する事になる」命を懸け、イルザとラズロをアメリカに亡命させて、自分は戦渦に残るなんて男のかっこよさの極みですね。

 ティエリ・エルメスという男が1800年頃にドイツからフランスへ渡り馬具職人の見習いになり、36年後に自分の馬具製造工房を持ったそうです。当時のフランスは産業革命による新興成金や貴族達のあいだで、高級馬具の需要が拡大していた時期でした。三代目のエミール・モーリス・エルメスはファスナー付の革製バックを発表し、徐々にファション界に近づき、鞍造り独特の縫い目を見せる皮革衣料やハンドバックを発表した。縫目を内側に隠すのが常識であった時代に、荒々しい斬新なイメージが受けたそうです。画家志望であったエミールの娘婿デュマは絹のスカーフをデザインし、もう一人の娘婿ゲランは香水を造り、優良顧客に進呈したそうです。これにより女性顧客が一気に広がり、社交界に深く浸透して行ったそうです。1978年デュマの死後、後を次いだシャン・ルイ・デュマは絹製品部門を拡大すると共に、事業の多角化を進めながら伝統ブランドを確立していったようです。エルメス社のルーツである馬具は衰退著しい分野です。しかし、エルメスのブランド(印=商標)は創業の原点である19世紀型の御者のいない馬車です。「私達は最高のモノを提供します。御するのはお客様にお願いします」との意味だそうです。

 エルメスの第一の販売戦略はイメージ戦略です。前述した「カサブランカ」や「誰がために鐘は鳴る」「ガス燈」「さようならをもう一度」等、世界的に大ヒットした名画に数多く主演した、スェーデン生まれの名女優が愛用したハンドバックがエルメスだった。ヒッチコック映画の「裏窓」等に主演して、のちにモナコ王妃になったグレース・ケリーも愛用者で、妊娠中にバックでお腹を隠した写真が雑誌に載り、「ケリー・バック」と呼ばれるようになった。大統領夫人のジャクリーン・ケネディなども愛用していたとのことです。1950年代から60年代にかけてのイメージ戦略は大成功、世界的な販路拡大を可能にした。第二の戦略、馬具製造の伝統から基本的に手作りの一品生産、職人の技(わざ)による品質、然るに供給数量は制限され、マーケットには飢餓感が生まれ、結果として超高価となる。第三の戦略は顧客ターゲットを、富裕層に絞ることです。得られる利益は巨大となり、ブランドを維持するための、サービスに投資できる好循環となりました。ブランド価値は買い物したときに貰うペーパーバックまでが、ファションになっている。同様なイメージ戦略に成功したのが、ユーヴル・ド・ジパンシーです。オードリー・ヘップバーンの衣装デザインを数多く担当し、オードリーが映画の中で着るドレスやパンツが世界中のファンを魅了すると同時に、ジパンシーもファション界で注目を集め、今や誰もが知るブランドになりました。「名優は終わりを告げても、銘品は活き続ける」ですね。


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