ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 149

☆ 日本文化でブランド創出☆

2007.05.08号  


今、なぜブランド品に注目が集まるのか。なぜ、ブランド品が売れるのか。先進諸国の消費者は生活必需品が行き渡った今日、希少価値や独自性のある商品、付加価値の高い贅沢品を買い求めるようになってきた。東京・銀座の並木通りには、欧米の衣料・装飾品の有名ブランドが、軒を連ねて並んでいる。そして近年は表参道や六本木けやき坂通りなども、ファッション・ストリートと化している。
消費者は商品に対する「ホンモノ志向」と「品質への不安」な心理が常に同居している。
その心理に対してブランド品は、品質が保証されている安心感がある。購買者にとっては、そのブランドのグレードが高くなればなるほど、「買う歓び・持つ歓び・使う歓び・自分で見る歓び・他人に見せる歓び・他人に話す歓び」などのエンタテイメント性を含んでいる。
さらに「ステータス・シンボル」としての価値があり、「富のシンボル」であり、「お洒落の演出」にもなっている。また、ネット・オークションなどでリセールする「換金性」という新たな価値もでてきた。消費者が商品を購入するときには、ブランドが商品の選択基準の重要なファクターになってきている。
ファッション系の有名ブランドのなかには、ビジネス全体の売上の何割かを、日本のマーケットで占めており、国際的にも重要なマーケットとなっている。こうした高い価値を有する商品は、価格も高くなってしまうが、最近は消費傾向が変化したこともあり、好調な販売増を続けている。
まずストックの、バブル崩壊後からの下げが、値上がりに転じたことにより、先行き安心感が広がり、高額品購入へ動きだした。次に所得の二極化現象で、富裕層はより富を持つようになり、買い物を楽しんでいる。さらに消費の二極化現象も顕著になり、若い女性のように所得が低い層も、家庭で使う日用品は100円ショップで済ませ、外出するときのオシャレには、高級バッグを買うように、消費の仕方を区分けしている。このような背景が一般的な消費傾向となり、その一部がブランド品に向かっていると思われる。

日本人のブランド志向は、圧倒的に海外ブランド志向である。自動車においても高級車はBMWや、ベンツなどが圧倒的な人気を得ている。映画007などに度々登場するアストン・マーチンは、2000万円もする高級車の順番待ちが大勢いるという。
ファッション関係でも、前述のように海外有名ブランドが、東京の銀座・青山・六本木などに旗艦店を、競うように続々とオープンさせている。地方都市においても有名百貨店では、店舗の顔として海外の高級ブランドがインショップを展開している。しかし残念なことに、日本のブランド・ショップが、少数しか見あたらないのは寂しいかぎりである。
これには日本のファッション・メーカーにも責任の一端がある。国内ビジネスに汲々として、広く海外に目を向けた展開を積極的に図る意気込みがあまりにも乏しい。国内のビジネス環境も、73年のオイルショックで、それまでアパレル産業の主役であった川上の業界である繊維・織物の素材産業は、大打撃を受けてリストラの嵐が舞った。その後の主役は川中の業界に移り、この頃からアパレル業界というのはレナウン、オンワード樫山、イトキン、三陽商会、ワールドなどを中心とする川中の業界を指すようになった。
80年代に入ると次々と創刊されたファション雑誌に、煽られるように消費者の個性化や多様化が進み、庶民の消費は膨らんでいった。とくに85年以降のバブル景気では、デザイナーズ・ブランドやインポート・ブランドなどが飛ぶように売れた。デパートやブテイックなどの小売業界も、売場の拡大を競うようになった。しかし、バブルが崩壊した90年代になると、消費は極端に冷え込み、川下と呼ばれる小売業は疲弊してしまった。川上から川中までの業界の間には、商社や問屋などの中間業者が何社も介在し、直接連携できない非効率な、古い体質が未だに残っている。

一方、ミチコ・コシノ、ジュンヤ・ワタナベ、ヨウジ・ヤマモトなど、世界で活躍するデザイナーは多くいるのだが、国内評価は低い傾向がある。森英恵、高田賢三、三宅一生などは、フランス芸術文化勲章(レジオン・ドヌール勲章)を受賞しているが、国内ではファッションに、貢献した人への関心が薄く、顕彰する機会も少ない。
国内ではファッション界の人材が、不足していることも事実である。優秀なデザイナーがいても、資金的なバックボーンが弱く、マネジメント能力も不足である。若手デザイナーはデパートなどの売り場確保にも、汲々としているのが現状である。因って、優秀なデザイナーは海外へ活躍の場を求め、国内から流失してしまっている。
イギリスでは10年ほど前から、新しい国家ブランドを確立するために、国家広報戦略とクリエイティブ産業振興を推進している。フランスではLVMHグループを始めとしたファッションや、フランス料理などで高級ブランドを確立しているが、さらにフランス語の普及や、見本市などのイベント強化を打ち出している。イタリアもデザイナーと見本市などを、連携させる戦略を打ち出し、70年代からはデザイナーの名前を全面に出した戦略を展開したことで、アルマーニやベルサーチなどが世界的なブランドに成長した。

日本の工業製品は世界中から評価されており、品質面では絶大な信頼を得ている。日本ブランドの工業製品が世界を席巻しているモノも数多い。現在、爆発的に売れている薄型テレビも、パナソニックやシャープのブランドが、世界の消費者に支持されているだけでなく、サムスンの製品も日本の部品メーカー無くしては造れないのである。携帯電話においても、日本メーカーは販売台数こそノキアやモトローラの後塵を拝しているが、主要部品のほとんどは日本製か、もしくは日本のメーカーが関与している部品である。自動車ではトヨタが、この1−3月の販売台数ではGMを抜いており、今年は世界ナンバーワンの、自動車メーカーになることは、確実な模様である。工業製品においては「メイド・イン・ジャパン」が最大のブランドなのだ。
このように工業分野の製品名・会社名には馴染みが多いが、ファッションやデザインなどでは、ブランド力が不足している。小泉前総理の肝いりで設置された知的財産戦略本部(現在の本部長は安倍晋三総理)がまとめた資料によると、日米英独仏の先進5ヶ国の衣類の輸出・輸入の比較では、日本の衣類の輸出額は5億3千万ドルで、イタリアの25分の1でしかない。輸入額は2百億ドルに近く、アメリカに次いで高い数字となっている。日本は工業製品の輸出に偏っているのだ。ブランドは知的財産権の重要な一つで、ブランドとは文化でもあり、国家の品格にもつながっている。
日本の食文化では、海外においても絶大な人気のヤキトリ、てんぷら、寿司、それに最近では牛丼やおでんなどがあり、これらも外国から見れば立派な日本ブランドである。日本の洋装文化は、明治維新後に欧米から持ち込まれた事もあり、やむを得ない部分もあるのだが、和服は外国人にとって憧れの服飾文化である。フランスはブルゴーニュのワインを日本に売り込むが、日本にだって大吟醸の酒がある。今後はこれらを積極的に、日本ブランドとして海外へ売り込む努力をして欲しいものである。これを公的機関が支援し、ブランドを育てる環境つくりも必要である。
外国人観光客は日本に来ると、京都などで日本古来の建築物や庭園を楽しみ、京料理に舌鼓を打つ。そこに日本古来の伝統的文化を見るからである。ところが、日本へ来る外国要人には、ヨーロッパ建築の迎賓館へ案内し、フランス料理の晩餐会はワインで乾杯する。
これでは政府が自ら日本文化を否定しているようなものである。何故、日本政府は日本古来の文化に誇りを持てないのであろうか。知的財産戦略本部が推進している、東京の最先端のファッションや、日本食を海外に売り込もうと言う戦略も、政府自らが日本の文化的資産を再認識すべきと思う。すれば国内の文化的資産を、ブランド品として創出することも可能だし、日本ブランドを海外展開する活路も開けるであろうに・・。




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