ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 151

☆ 職人のこだわり☆

2007.05.22号  


ディエゴ・デッラ・ヴァッレは、イタリアのアスコリ・ピテーノ県で、小さな靴工場を営む家で生まれた。典型的な家族経営の高級靴メーカーであったが、父の代から徐々にビジネス的成功を収めていた。ディエゴがアメリカで修行中に、一足のドライビング・シューズを見つけ「これを上質に仕上げれば、良いモノができる」と閃き、1979年に1000足の「ゴンミーノ」を売り出した。ディエゴが25歳の時だった。
その後はイタリアのバッグやシューズなどの、高級皮革メーカーとして事業を順調に拡大し、00年に新会社「TOD'S」を設立、ミラノ証券取引所に上場した。名前の由来は「世界中どこでも同じように発音され、聞こえが良くて、記憶されやすいから」とのことで、社名とブランド名に、ディエゴ自身が考えた。
グループ会社は「トッズ」のほか、同じく高級皮革ブランド「ホーガン」、高級アパレル「フェイ」の3ブランドがある。最近はトッズ・ブランドで、小物やレザージャケットなども扱っており、フェイのバッグも日本市場で注目されつつある。
革の選別や裁断、仕上げ縫いなどの重要な作業は、すべて熟練した職人の手仕事でおこなっている。靴の左右が均質となるように、同一の革から全行程を一緒に進めるなど、職人の品質に対するこだわりの強さが人気の源泉となっている。

トッズの日本での販売は、97年に東京・新宿伊勢丹内に1号店をオープンさせ、その後も福岡・三越、大阪・大丸、大阪・阪急、札幌・丸井今井、渋谷・西武、玉川・高島屋、銀座・松坂屋、などの百貨店でインショップを展開していた。0412月に「トッズ表参道ビル」を建設し、直営の旗艦店をオープン、日本へ本格上陸を果たした。
売り場スペースが限定される百貨店と違い、品揃えもミラノ本店と比較しても、劣らないアイテム数を誇っている。各国の旗艦店だけで扱う、オリジナル限定品も用意されており、ディスプレイについてはミラノにある本部から、細部にわたる指示が届くという。
ディエゴ・デッラ・ヴァッレ社長兼CEOは、オープンに先立つ記者会見で「品質を重視するトッズの、こだわりを凝縮した店舗」「アジア市場へのステップ」と豪語していた。
このビルは表参道に面した7階建てで、延べ床面積が約2550平米有り、1階・2階と3階の一部がショップになっており、トッズ・ブランドとして最大の店舗である。3階の一部と4
5階が、グループ売上高の約1割を占める好調な日本市場の統括本部となる。
6階・7階はイベント・スペースとして利用されている。
網のように建物を包み込むコンクリート外壁が、下が太く上層階にいくに従って細分化され、樹形が上に伸びて行くような、有機的な外観デザインが特徴となっている。建物全体で表情を表しているような意匠は、世界的に評価が高まっている伊東豊雄による。

建築家の伊東豊雄(伊東豊雄建築設計事務所代表)は、日本統治時代の京城で41年に生まれた。東大工学部を卒業後、菊竹清訓設計事務所を経て、71年にアーバンロボットを設立して独立。79年に伊東豊雄建築設計事務所に改称した。
86年に横浜西口にあるシンボルタワー兼地下街換気塔「風の塔」を設計し、金属板の斬新な使用方法と、環境に対する相互作用性で注目を浴びた。84年に日本建築家協会新人賞を受賞したのを始め、86年に日本建築学会賞、90年に「サッポロビール北海道ゲストハウス」で村野藤吾賞。八代私立博物館「未来の森ミュージアム」では毎日芸術賞、BCS賞。
98年の「大館樹海ドーム」では、芸術選奨文部大臣賞、日本芸術院賞、BCS賞を受賞。
00年には国際建築アカデミー賞を受賞。代表作の一つである「せんだいメディアテーク」でもグッドデザイン賞、ベネチア・ビエンナーレ金獅子賞、BCS賞などを受賞した。
06年には王立英国建築家協会ロイヤル・ゴールドメダル賞を受賞するなど、数々の賞に輝いている。ハノーバ万博のテーマパーク・ヘルスフューチュア館や、ベルギーのブルージュパビリオン、イギリスのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオンを手がけるなど国際的にも活躍し、海外でも高い評価を得ている。新建築誌上で槇文彦から「平和な時代の野武士達」と呼ばれた世代の筆頭で、日本を代表する建築家、著書も多数執筆している。

トッズのドライビング・レザーモカシンは「ゴンミーノ・モカシン」の愛称で親しまれている。自動車メーカー・フィアットの、当時の社長から「車を快適に運転できる靴」との注文を受けて製作された。それ以来トレード・マークにもなっている133個のペプル(ゴム製の突起)が、車を運転する際に威力を発揮する。その後も改良が加えられ、一枚革で足にフィットする感覚が、絶妙の履き心地を生み出している。
製法は発売されてから現在も変わらず、厳しい検査を通った革を、手縫いで仕上げられる品質の良さが好評で、多くの著名人達に愛用されている。自動車事故で亡くなった故ダイアナ妃が、愛用していたことでも知られる。顧客リストにはヒラリー・クリントン、ハリソン・フォード、カトリーヌ・ドヌーブなどが名を連ねている。
30歳から40歳代の女性が、顧客の主流になっているが、より幅広い層に知名度を上げていくことに注力している。日本における販売会社トッズ・ジャパンを中心に、アジア商圏での拡大戦略を展開している。トッズはサッカー・ファンにとっては、著名なブランドになっており、ディエゴ・デッラ・ヴァッレ社長は、中田英寿選手が所属していた伊サッカークラブ・フィオレンティーナの、名誉会長としてスポンサードしている。中田選手を獲得したときには、トッズのアジアマーケットでの存在を高めたとも云われた。中田選手はサッカープレーヤーとしてのポテンシャルに加えて、ファッション面でメディアに掲載されることも多い。このようにトッズは男性顧客の拡大に力を入れており、イタリアのスポーツ車メーカー・フェラーリとの、コラボレーション商品も成功を収めている。
こだわりの品質だけでなく、いろんな面で注目されるのも、トッズの魅力かも知れない。




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