ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 162

☆ ビジネスからカジュアルへ☆

2007.08.07号  

アネミ製ケースで圧倒的知名度と、技術力を誇るゼロ・ハリバートンの歴史は、一人のビジネスマンの手によって始まった。アール・P・ハリバートンは1930年当時、世界を駆け巡るエンジニアであった。彼はカバンの隙間から入り込む砂や埃によって、重要な書類や荷物が汚たり、傷むことに不満を持っていた。如何なる使用環境にも耐えられるカバンを切望した彼は、カバンの中身を完全に保護し、密閉性・強度・耐久性、それに美しさを兼ね備えた、理想のカバン創りに自ら着手した。
彼はエンジニアとしての知識と経験、さらに航空機設計会社の協力を得て、アルミニューム2024合金製のオリジナルケースを誕生させた。同じ悩みを持っていた多くのビジネスマン達の要望を受け入れ、ハリバートン・ケースとして38年に本格生産を開始した。
46年にはハリバートンのブランド・マークとも言える二本のプレス・デザイン(強度を持たせるためのリブ)のデザイン・モデルを発表した。68年にゼロ・コーポレーションの傘下に入り、ゼロ・ハリバートンとして再出発する。
翌年にはNASA(米航空宇宙局)の依頼で、アポロ11号用「月面採取標本格納器」を製造。標準モデルの内部を改良したケースに、月面で採取した石や砂などが入れられた。
74年にレバノンのベイルート空港で起きたハイジャック機爆破事件では、人質が解放された後に、航空機が爆破されたが、残骸の中から発見されたゼロ・ハリバートンのカバンは、外観こそ損なわれたが中身は損傷無く回収された。この二つのエヒソードは、ゼロ・ハリバートンの品質の高さを実証し、ブランド・イメージは世界に浸透することになった。

68年にイタリアでプラスティモダ社が設立された。75年にバッグの製造が開始され、2年後にはMandarina Duckブランドが誕生した。この頃は革製品が主流で、カラーの打ち出しも無かったマーケットに対し、工業用ゴム素材を使用したバッグを発表した。防水性のゴム引き加工したバッグは、爆発的な人気を得ることになる。
マンダリナ・ダックは遊び心とグレード感が融合し、イタリアの美意識に基づいた表情豊かなブランドとして、世界に受け入れられる事になった。鮮やかでポップなイタリアン・カラー、オリジナリティを感じさせる優れた素材、高い品質を生み出す確かな縫製、アートのように美しいフォルム&デザインが特徴となっている。ファッション感度の高いファンから根強い支持を得ているイタリアを代表するブランドである。

ドイツを代表する皮革ブランドであるオファーマン社は、1842年にヤーコブ・オファーマンによってベンスブルグ(現在のベルギッシュ・グラードバッハ)で、革のなめし工場として設立された。自社で養成したクラフトマン達の、良質な素材選びとモノ創りへの拘りは、次第にファンを獲得していくことになる。22年にケルンに工場を開設してからも、その拘りは更に磨き込まれていった。このモノ造りの姿勢は、理性を追求するドイツ人気質と相まって、急速にマーケットを拡大していくようになる。
現在オファーマン社は4代目に受け継がれ、その伝統は絶えることなく、軽量で機能性を兼ね備えた商品の開発を始め、細部にまで最新のテクノロジーが活かされている。ビジネスユースから日常のパーソナルユースまで、クラフトマン達の情熱と探求心が、品質の高い最高級のバッグを生み出している。オファーマン社の160余年の歩みは、カバンの歴史そのものであり、セカンドバッグやボストンバッグなど、高級メンズカテゴリーにおいての、ブランド・バリューは世界のマーケットで認知されている。

カバン大手のエースは04年に米サムソナイト・コーポレーションとの、ライセンス契約を解消したのを契機に、独自商品の展開を加速させている。0511月には伊ブランドのマンダリナ・ダックのライセンスを取得し、日本国内における同ブランドのバッグ・ジャンル全カテゴリーの製造販売権を得た。昨年の2月下旬より全国販売を開始している。
エースはドイツの高級ブランドオファーマン社の、代理店として輸入販売してきたが、
0612月には日本での製造販売権を取得。今年1月より国内展開をスタートさせ、今秋には日本市場に合わせた商品の開発を進め、高価格帯商品の中核に育てる計画である。
ゼロ・ハリバートンについては、05年から日本における販売代理店として、小売りベースで年商10億円程度売り上げていた。昨年12月末に全世界における商標及び販売を含んだ全ての権利を買収した。同ブランドの知名度を生かし、買収を機に商品群を拡充する。今秋にもエースが企画した商品を投入する予定である。
エースはビジネス・カテゴリーを得意分野としてきたが、近年になりファッション性を持たせたカジュアル路線に急速に傾斜している。
昨年9月JR川崎駅に隣接した大規模商業施設「ラゾーナ川崎プラザ」に、「Tabi」をオープンさせた。デザイナー永澤陽一とのコラボレーションから生まれた、女性のためのトラベルバッグをTabiブランドで展開する初めてのショップである。ショップのある
4FはJTBやHIS、近畿日本ツーリストやトラベル・カフェなどが出店しており、トラベル・ソリューション・ゾーンとして、航空ラウンジを思わせるような、ゆとりと満足を提供できる環境となっている。駅直結で駐車場完備の利便性により、OLやファミリー層の取り込みも可能である。国内だけでなく将来的には海外マーケットの拡大も視野に入れた、モデル・ショップとして様々な情報発信の機能を持たせている。
海外マーケットを視野に入れたブランド、エースジーンの展開も加速している。今年2月には東京の旗艦店として日比谷店をオープンさせた。4月には中国・上海に直営店をオープン。5月には成都の伊勢丹百貨店内にショップを開いた。今後はアジアを始め、ロシア、中東、北米、欧州などの世界市場をターゲットに、マーチャンダイジングとマーケット戦略を強化させる計画だ。エースは1940年創業、資本金141000万円、06年度売上高272億円の旅行バッグ・ビジネスバッグの大手である。



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