ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 251

☆ 激戦区に殴り込み☆

2009.05.06号  

 景気の低迷によって、消費者の買い控え傾向が強まり、全国各地の商業地には重たい空気が漂っている。そんな中、ファッションのメッカとして知られる東京・原宿の一角には、数少ない勝ち組と呼ばれるカジュアル・ブランドが集まり、何れも活況を呈している。
ユニクロ(既号161.世界ブランド「ユニクロ」)を始めとし、スェーデンのH&M(既号217.ファスト・ファッションの雄)、スペインのZARA、イギリスのTOPSHOP、アメリカのGAP(既号243.世界一のカジュアルブランド)などが進出し、原宿からほど近い表参道にはイタリアのベネトン(既号202.庶民的価格で最高品質)が構え、カジュアル衣料ショップが激戦を繰りひろげている。
この激戦地にアメリカで急成長しているカジュアル衣料チェーン、フォーエバー21が4月29日、原宿に1号店をオープンさせ、新たな本命候補との呼び声とともに上陸してきた。
フォーエバー21では、この旗艦店を手始めに路面店方式で首都圏や、関西地方を中心に、国内100店舗体制を早期に確立する計画である。今回オープンしたのは、ファッションのトレンドをいち早く取り入れ、安価に販売するファースト・ファッションの代表的ブランドで、昨年の上陸以来旋風を巻き起こしているH&M原宿店の真隣である。
明治通り沿いに総店舗面積530坪、地下1階から地上3階まではレディース、地上4階にはメンズと、5フロアーで展開する大型店舗である。正面入り口には白い「FOREVER 21」のロゴを大きく掲げ、エキサイティングな店舗空間も興味を引いている。
オープンに先駆けてダン・チャン会長が会見で、14ヶ国目の進出となった日本での事業見通しについて、昨年オープンした韓国の場合、来店客の8割が日本人によって占められていたことを明かし、品質に厳しい日本でも満足いく業績を上げられる自信を示していた。
フォーエバー21は、今回が初進出ではない。2000年に三愛をパートナーにして、東京・立川市に第一号店を開いたが、短期間で撤退するハメになった。今回は10年越しの再チャレンジだけに、日本のマーケットを制するには、ジャパニーズ・ファッションのメッカである原宿を制すべきと、初球から剛速球を投げ込み、最激戦地に殴り込みをかけてきた。

 フォーエバー21では「100ドルあれば服からバッグ、アクセサリーや靴まで全部揃う」と云うのが、ブランド・コンセプト。さらに「ベストファッション、ミニマムプライス」のキャッチフレーズは、店頭商品の圧倒的なバリエーションと、プライスゾーンを見れば明らかとなる。トングサンダルは850円、ベーシックなレディースシャツが1080円、タンクトップが350円、Tシャツ450円、ジーパン1550円と、ユニクロなどの競合にも負けない価格帯の商品が並ぶ。同じワンピースでも、店内を回れば次々と異なるテイストが登場する。フリル付きジャージワンピースが2180円、花柄のシフォンワンピースが2480円など、最新のデザインとしては想像出来ない安価なプライスが目を引いている。
アクセサリーはパール風のエレガント系や、スタッズなどのロックテイスト、ゴールドやビーズを使ったエスニック調など、テイストやバリエーションも豊富に並べられている。
店舗の顔となるショーウィンドーには、流行のストラップレスのチューブワンピースや、ビスチェタイプの花柄トップス、モード系のモノトーンワンピースなど、最新ファッションを強調するアイテムを加え、流行に敏感な客層をターゲットにしている。店頭ではニュースを見るような感覚で、商品を見せる演出も効果を上げている。
また、公式ウェッブショップで販売されている60点以上の、ワンピースは全て30ドル未満。その価格面でのインパクトは、H&Mすら脅かす。メンズではデニムもウィンドブレーカーも、20ドルから30ドル台の価格である。価格面ではユニクロも負けてはいないが、ベーシック志向のユニクロとは違い、派手な色や柄を見ているだけでも楽しく、選ぶ喜びも感じることができる。

 フォーエバー21は1984年に、米・ロスアンゼルスで韓国系米国人のダン&ジン・チェン夫妻が創業した。今年は創業25周年となるが、偶然にもファーストリテイリングが広島市に、ユニクロ1号店をオープンしたのも84年であった。同じ年に創業した両社であるが、
そのビジネスモデルは全く異にしている。ユニクロのビジネスモデルは、一般にはSPAと呼ばれ、自社のデザイナーが商品を企画し、自社で契約した工場で生産し、自社の店舗で販売するという、企画・製造・販売が一貫していることを特徴としている。このビジネスモデルはGAPが提唱して広まり、今では多くのブランドが採用している。
これに対してフォーエバー21ではファースト・ファッションというビジネスモデルを取り入れている。この販売手法はH&Mに代表されるように、ファッショントレンドを商品化するスピードが極めて速く、ファッションショーでモデルが着た服を、14日から20日で店頭に並べる。目まぐるしく新商品を投入し、どれだけ売れていても追加生産はしない。「売り切れごめん」の緊張感が顧客に刹那買いを促している。
同じファースト・ファッションと呼ばれていても、フォーエバー21がH&Mと決定的に違っているのが商品の企画・生産である。H&Mは自社で商品企画を立てて生産するのに対し、フォーエバー21では自社の専属デザイナーが企画するよりも、多くの取引先メーカーと提携して、取引先が企画・生産した商品を、仕入れて売るビジネスモデルが基本となっている。メーカーから提案されたデザインをフォーエバー21向けにアレンジして生産して貰うこともある。メーカー側からするとOEM生産(相手先ブランドの生産)である。
それでもスピードは劣らない。毎年2度の4大コレクションの直後には、ファッションショーで披露されたばかりの、デザインエッセンスを生かしたアイテムが直ぐに並ぶ。
アパレル業界では販売価格を極力抑えるため、生産コストを下げる工夫が、国際分業の形で進められており、賃金の安い国や地域での生産も重要な選択肢である。しかし、ロスアンゼルス発フォーエバー21の場合は、殆どの商品が地元カリフォルニア州内の工場で生産されている。テイストはアメリカン・カジュアルだが、米国ファッション・チェーンの雄GAPとは趣を異にしており、GAPの普段着感覚よりも、ポップで若々しくロスアンゼルス・セレブ風の、少し派手目のカジュアルである。

 フォーエバー21は全米を中心として、カナダや中近東、韓国・ソウル、タイ・バンコクなど、世界13ヶ国に直営・フランチャイズ合わせて430店舗を展開している。
売上高は直近2年間でも年率3割から4割という、高い伸びを実現している。2008年の売上高は17億ドル(約1632億円)で、前年比3割増。今期も23億ドルから24億ドル(約2208億円から2304億円)の売上高と、前年比4割増の計画を立てている。進出した国や地域においては集中的に出店し、低価格衣料を大量に売りさばく手法が、好結果を生んでいる。
世界におけるカジュアル衣料品の雄は、何と言っても2兆円近い規模のGAPである。
次にZaraとH&M、それにイギリスのトップショップが続いている。ユニクロのビジネスサイズは、概ねGAPの四分の一であり、フォーエバー21はユニクロの約半分で、ベネトンよりも少ない。しかし、フォーエバー21は売上高において、かなりの後塵を拝してはいるが、現在の勢いは他社を圧倒するものがある。盛衰の激しい業界であり、オープンした1号店が原宿を制すれば、目標である国内100店舗を早期に達成し、日本制覇も夢ではなく、その勢いが他国でのショップ展開にも波及していくかも知れない。


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