ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 253

☆ 2008年 ブランドの浮沈☆

2009.05.20号  

 消費不振の底が見えない状態が続いている。昨年前半は原油価格の値上がりを始め、貴金属や食品、日用雑貨などの断続的な値上げにより、家計支出が日常的に増えたため、消費者は支出を抑える工夫をするようになった。秋口以降は物価が沈静化したにもかかわらず、米国のリーマンショックに端を発した世界同時不況に突入。企業では非正規社員の削減や残業規制が執られ、雇用の不安と収入減が消費マインドを悪化させた。賢い消費者は商品やサービスを選別することで、自己防衛的な消費をするようになった。
紳士服市場ではマーケット全体が苦戦する中、コナカが自宅のシャワーで汚れを洗い流せるとして売り出した「シャワークリーンスーツ」が大ヒット。5万円前後と通常のスーツより、価格は高いがアイロンも不要で、クリーニング代が節約できるのが人気の理由。
自動車市場では「セルシオ」など国産大型車や「ベンツ」「BMW」「ボルボ」「ルノー」などの欧州勢が苦戦、米国車に至っては論外の状況である。健闘しているのは「タント」や「フィット」などの国産小型車や、「スズキ」「ダイハツ」などの軽自動車である。ホンダのハイブリッドカー「インサイト」は予約段階から好調な滑り出しを見せ、4月の新車登録台数では首位を獲得。トヨタが5月18日に発売した「新型プリウス」は、8万台以上の予約が入ったと云う。ハイブリッドカーはガソリン車よりも価格設定が割高であるが、消費者は耐用年数に応じたランニングコストを重視した選択をしている。
環境問題の高まりを受けて、冷蔵庫やエアコンなどの省エネ家電も売上を伸ばしている。
今月15日から始まった政府の省エネ家電購入支援策「エコポイント」も、導入初日から好調な滑り出しを見せた。このポイントが何にどう使えるのか未定なのに早くもヒット。
このように消費者は何かの変化を契機に、消費の流れを変えてしまう。いわゆるカテゴリースイッチとか、ブランドスイッチという現象だ。昨年の原油高騰を契機に、カーシェアリングやレンタカーの利用が広まり、ガソリン価格が大幅に下がっても車離れが進んでいる。最近の若者は所得の伸びが少ないことや、道路の混雑や不便な駐車場、身の回りの生活用品が、有り余る中で育ったこともあり、車に憧れを持たなくなった。
一方では、自転車が二桁の伸び率で、特に「電動アシスト自転車」の売れ行きは好調だ。

タクシー業界では小泉改革を機に、規制緩和して車両数を大幅に増やしたが、実車率が低下して値上げに踏み切った。しかし、値上げを契機に客離れをおこし、値上げ効果よりも客数減の方が大きくなり、売上が落ちたため再び規制強化の声が聞こえてくる。
ビール業界では数年前から発泡酒や、第三のビールと云われる飲料が拡大。ビールが縮小傾向にある中で値上げしたことにより、第三のビールへカテゴリースイッチされた。その間隙で値上げをしなかったサントリー「ザ・プレミアム・モルツ」だけは絶好調を保ち、サントリーのビール事業を、46年目にして初の黒字に押し上げた。
即席麺業界は小麦の国際価格上昇により、値上げ幅の大きかったナショナルブランドのカップ麺が苦戦。一方では、スーパーやコンビニ、それに生協などが挙ってプライベートブランドのカップ麺を立ち上げて、好調な売れ行きを示した。しかし、プライベート商品のカップ麺はナショナルブランドの大手メーカーが、OEM供給している場合も多く、結局はメーカーではなく、小売が主導権を握って消費者に提供し始めたということである。
食パン業界ではヤマザキパンが値上げの際に、マーガリンの代わりに、コクと香りの良いバターを使用。原料品質の向上が、既存客を維持するだけでなく新規顧客の獲得も成功。価格変更は企業にとっては大きな戦略転換だが、消費者とっては商品価値対費用を一方的に変更されたことになる。周到な戦略を練らなければ、ブランドの優勝劣敗につながる。

 内閣府は1月29日に学識者による景気動向指数研究会を開き、前回の景気拡大時期を2002年2月から2007年10月までの5年9ヶ月と認定した。世界一の経済力を誇る米国でも、昨年12月11日に全米経済研究所が、2007年12月から景気が後退局面に入ったことを宣言。日米経済はほぼ同時期に景気後退局面に入ったことになる。
景気拡大期間の名称は、古事記に記された「いざなぎ・いざなみ」による国生みの伝説と
1966年から1970年にかけて57ヶ月続いた「いざなぎ景気」を、12ヶ月上回る好景気が記録的に持続したことから「いざなみ景気」と呼ばれている。拡大期間は長かったものの、成長率は2%前後と低く、賃金上昇は過去の好景気と比べても頭打ちで、好景気の実感に乏しかった。与謝野経済財政担当大臣は1月30日、閣議後の記者会見でダラダラ陽炎のようだと「かげろう景気」と呼んだ。エコノミストの間では世相を映した「リストラ景気」「格差型景気」「無実感景気」とも呼ばれた。
2007年11月から景気の下降局面に入ったわけだが、米国のサブプライム問題に端を発した世界金融危機の影響を受け、とりわけ2008年9月15日のリーマンショック後は、急速に景気が悪化しており、今なお底が見えない状況である。このような状況の中、国内の消費不振は回復どころか、止めようもない下り坂を走っている。

いざなぎ景気の頃は我が世の春を謳歌していた百貨店も、その後も地方都市に出店するなど成功の報酬を享受していた。しかし、その後は成功の復讐が待っていた。都市部の一等地に店舗を建て、あとは不動産賃貸業かと思うほど、テナントへの場所貸しで利益を上げる。自前の売り場の商品は問屋任せで、売れなければ返品するという、リスク無しの安易な経営手法は、やがて時代の流れに取り残されてしまった。ファッション・トレンドには鈍感になり、商品に対する目利きもできなくなり、経営危機が表面化してしまった。
百貨店の苦戦が続く中、1872年創業の「丸井今井」は、1月29日に札幌地方裁判所に民事再生法適用を申請。三越は3月に武蔵村山店と名取店、小型売店の鎌倉店と盛岡店を閉鎖。5月には池袋店と鹿児島店も閉鎖した。共に一時代を築いた老舗百貨店である。
百貨店やアパレル業界が全般的に沈む中、一人勝ちとなっているのが「ユニクロ」である。品切れ続出した「ヒートテックインナー」、ブラカップ付きのトップス「ブラトップ」や「速乾Tシャツ」など、機能性を訴求した商品が大ヒット。前期比二桁の増収だった。
衣料品ブランドの店舗数で「GAP」を抜いて世界一になった「H&M」は、昨年9月の銀座店、11月の原宿店に続いて、今年は渋谷と新宿に出店。ユニクロでは一時フリースなどが爆発的に売れ、街行く人がユニクロの服を着ていることが一目で判ったことから「ユニバレ」という現象が起き、売上低下を招いたことがあった。H&Mの強みはファーストファッションを、安い価格で商品回転を極端に早く、多品種少量販売する手法である。
こうした動きに触発された総合スーパーは、足を引っ張っていた衣料品部門のテコ入れに乗り出した。西友は1470円の格安ジーンズを販売し、売上を伸ばしていた。しかし、ユニクロを展開するファーストリテイリングの、低価格ブランド「ジーユー」は990円ジーンズを発売し業界に衝撃が走る。各ブランドとも激安商品の開発に乗り出し、品質を維持しながらも、どこまで値下げが可能か、限界への挑戦を続けている。
衣料品の値下げラッシュが続く中、高級ブランドは在庫を抱えて苦しんでいる。ここを勝機と見たのが高級ブランド衣料の、インターネット会員制通販企業「ギルト・グループ」。米国で創業してから僅か一年の急成長企業である。このギルト・グループの日本版サイトが3月にオープン。一週間で10万人を超える会員を獲得したという。商品を買えるのは会員のみで、会員になるには別の会員の紹介が必要。このサイトでは新品の高級ブランド衣料が、通常価格の5〜7割引の破格で売られている。安売りを嫌う高級ブランドだが、在庫の山には耐えられずに放出。高級ブランド品の格安販売は、比較的若い世代の消費者から圧倒的支持を得て、在庫が不足する事態も招いているという。
消費者は節約志向を強めてはいるが、単純な価格志向や購入数を減らしているわけではなく、無駄と感じるものの支出を見直している。一方、美容健康や趣味などに関する商品サービスについては、高価格で付加価値の高いものの方が伸びている。ハウス食品の「プライムジャワカレー」は、標準品より2割ほど高いがカロリー30%、油脂量50%カットが支持される。タニタとオムロンの寡占市場の体重計も体組成計に進化し、メタボ該当者だけでなく、婦人層の美容志向の高まりもあり、体測定ニーズに応えてヒットしている。
消費者は節約して生活の質を下げるのではなく、商品サービスの選び直しにより、パフォーマンスを高めようとしており、品質への信頼獲得がキーワードになっているようだ。


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