ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 43

☆ ブランドに苦悩する松下☆

2005.03.29号  

 ある婦人が言ったという。「今アメリカでは『パナソニック』というブランドの商品が大変評判がいい松下電器もパナソニックのような優れた商品を造ればアメリカでもっとよく売れると思います」日本初の民間衛星放送局の WOWOWに松下電器産業の佐久間昇二副社長が再建社長(現会長)として転籍する前の頃、帰国子女向けに開いた商品説明会でのことだ。松下幸之助氏の最後の弟子とまで言われた、当時の佐久間副社長は複雑な表情で聞いていたという。
松下電器では十数年前よりグループ内でブランド戦略についての会議が度々持たれていた。
ライバルのソニーや5年連続増収増益と過去最高益の更新を続けている絶好調のキャノン、規模的には及ばないがユニークな商品作りをしているシャープなどは国内外統一のブランドであり社名も同じである。松下電器では社名と違うブランドがいくつもあり、そのほかに社章も制定している。
松下電器ではいまだに幸之助氏のイメージが色濃く残っている。ブランドの論議を尽くしていくと、社名の話になり、社名の話になると神様の話に辿り着き、結局結論が出ずに会議が終わってしまう連続だった。


 松下電器は03年4月にグローバル・マーケティング力とブランド価値の向上を目指して『Panasonic』をグローバル・ブランドとして位置づけると発表した。統一ブランド・コンセプトを『ideas for life』とし、「全世界の従業員が開発・製造・販売・サービスを通じて、人々の豊かな暮らしや社会の発展に、価値あるアイデアを提供し続ける」というメッセージである。商品とともに世界中のお客様に発信する事により、グローバルな成長を加速させる戦略だ。以下に松下電器がもつブランド名等を紹介しよう
『Panasonic』グローバル・ブランドとして全地域、全商品に使用する。55年輸出用スピーカに最初に使用した。当時海外向けにはNationalブランドが商標権問題で使用できなかったのでPanasonicブランドを制定した。ブランド・スローガンは「ideas for life」
『National』国内特定ブランド。角形ランプに最初に使用した。創業者である松下幸之助氏が「国民の、国民の為の、との意を込めて商標にした」ブランド・カラーはオレンジ色に統一する。国内販売のみでの使用。
『Technics』商品特定ブランド。国内向け高級スピーカに最初に使用。現在は全世界でオーディオ単体コンポ、及び電子楽器に使用している。
『Quasar』北米特定ブランド。米国モトローラ社から家庭用電子機器部門を買収した時に同社がカラーテレビに使用していた商標を継承した。カラーテレビ、ビデオ、電子レンジなど北米地域の特定商品に使用している。
『Mマーク』四角の角切りしたような八角形の中にMの文字。Panasonic やNationalの文字を商品が小さくてスペース的に表示が困難な場合に表示する識別マーク。
『社章』中抜き三角の角に小さい三角を重ねた形。社名に因んだ「三松葉(みつまつば)」で43年に制定された。常磐の松の結びを意味し、「堅忍不抜。生成発展、協力一致」の精神を象徴している。電子部品などに識別マークとして使用したこともある。
『NAIS』04年4月に廃止決定。松下電工が使用していたブランド。住関連の電材や松下電工が販売している電子機器用の部品にも使用していた。

 03年6月公正取引委員会から「ブランド力と競争政策に関する実体調査」が発表された。概要版から調査結果を抜粋して見ました。
「ブランドに関する考え方」事業者にとって有力なブランドを持つメリットとしては、社会的信用や顧客の固定、価格競争の回避効果が大きく、デメリットとしては不祥事やトラブル発生時のマイナスが強まる事が上げられている。消費者にとってはとくに化粧品、クルマ、家電品などの購入時にブランドが重要視されている。その背景には品質やサービスに関する安心感、ブランドそのものに対する愛着がある。
「価格支配力」特定のブランド品を継続購入する消費者は、他のブランドが 5%安くても乗り換えず、10%安くなってから乗り換える。特に化粧品、クルマ、靴、バッグ、財布、時計、宝飾品等では20%安くなっても乗り換えない消費者が半数近くいる。特定のブランドに愛着を持つ消費者は高いブランド・ロイヤリティを持っている。
「ブランド集中」特定のブランド品を継続購入する消費者は、その商品が購入不能となった場合、次に有名なブランド品を購入するとの回答が多く、代替性の高いブランドが集中した場合は競争に与える影響が大きい。同業他社の有力ブランド名を取得したメーカーは20%弱と少ないが、結果は競争上有利に働いたとの意見が多い。今後のブランド取得検討は40%強のメーカーが可能性ありとしている。
「PB商品のMB商品に対する圧力」プライベート・ブランドの購入経験者は食料品、飲料、雑貨で 70%から 80%、衣料品で50%と多いが、販売数量的には小さく、メーカー・ブランド商品に対する競争圧力は高くない。化粧品、靴、バク、財布、家電品ではPB商品の購入者は20%以下と少なくMB商品より20%安くても半数以上が購入しないと答えた。その理由としては品質の良さやMB商品が好きだからという回答が多い。
「新市場への参入促進効果」全く別の市場への参入には、ブランドが消費者イメージと
合わない事などから有効な参入手段とはならない。隣接市場への参入には、すでに確立したブランドを活用することが有効な手段となるとの結果が出た。

 WOWOWに佐久間社長が松下電器産業から転籍した時や、ニッサンにゴーン社長が仏ルノーから転籍した時のように、日本社会では従来からの利害関係や人脈関係から距離のある人材が経営トップになるか、現在話題になっている西部鉄道やダイエーのように抜本的改革をしなければ会社が成り立たないような瀬戸際に立たされなければ、大胆な経営の変革が出来ないのが日本企業の実状である。
00年6月に就任した中村邦夫社長は「破壊と創造」を旗印に、松下グループの聖域なき改革を押し進めてきた。1兆3000億円の売上高がある松下電工を子会社化したり、創業家である松下家の資産管理会社の側面もある松下興産も外部へ売却する方針を打ち出したり、破壊するイメージが目立っている。松下電器の業績回復ぶりを見ると昔のような、強い経営体質を取り戻しつつあるのも事実である。しかし、現在の市場には家電製品が溢れかえっており、他社商品との差別化が大変難しいのが実状だ。
幸之助氏の真意は定かではないが「当社には東京にソニーという研究所がある」と言ったと報道された事がある。「マネシタ電器」とも揶揄され、他社が先行した商品と似た商品を強力な販売力で市場を奪い取る二番手商法は通じない時代になってきている。
際だつ技術力のアピールも少なく、ブランド力も分散している感は否めず、「販売の松下」だけでは家電王国・松下の再興は道半ばのような気がする。
04年7月にコーポレート・コミュニケーション本部傘下に「ブランド戦略室」を設置した。グローバルで一貫した全社ブランド戦略を構築するとしているが、前記のように社章をいれると六個の商標があることになる。コーポレート・ブランドとプロダクツ・ブランドの区別が曖昧であり、冒頭の話のような内外消費者の戸惑いは隠せない。
中村社長の強い指導力を持ってしても、松下電器のブランド戦略が中途半端になってしまったのは残念でならない。




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