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桃太郎のビジネスコラム 70

☆ 時間を止めた保存食☆

2005.10.11号  

 1945 年 8 月、広島・長崎に原爆が落とされた。日本はやむなくポツダム宣言を受け入れて降伏することとなった。39年に第二次世界大戦が始まり、敗戦に至るまで日本のすべてが戦争に費やされた。農村では若い働き手の総てが戦地に駆り出され、戦地で命を落とした者も多く、復員してきた者が故郷にたどり着くと農地は荒れ放題となっていた。戦地から帰って就農した者は、自分たちの田畑の整地と自給する食料生産が限界で、都会の人達の分まで食料生産は手が廻らなかった。都会には復員してきた兵士や、日本が連戦連勝していた時期に商売の新天地を求めて朝鮮や満州に渡っていた人達が引き上げてきた。戦時中は田舎に疎開していた子女達も都会に戻ると都会の人口は一挙に膨れ上がり、どうしようもない食糧難が待ち受けていた。軍需はなくなり戦後の日本経済は疲弊しきっていた。
都会の生活者達はタンパク質の不足から栄養失調が蔓延し政府は対策を迫られた。
食糧難を解決するために政府は、北海道の「冷凍魚」を都市部へ配給品として供給を始めたが、食感は悪く解凍すると腐りかけたアンモンニアの悪臭が漂い、「冷凍は不味い、腹をこわす」という悪いイメージが定着してしまった。


 42 年 5 月公布の水産統制令に基づき、12月に海洋漁業に伴う水産物の販売・製氷・冷蔵業などの中央統制機関として、水産会社18社などの出資により資本金5千万円にて帝国水産統制株式会社が設立された。45年11月に水産統制令の廃止を受け、12月には商法上の株式会社となり、日本冷蔵株式会社(現ニチレイ)と社名が変更された。
この氷を扱う冷蔵庫会社に44才になる一人の男が採用された。戦地から復員して一旗揚げる夢に燃えていた木村鑛二郎は冷凍食品を売り出せないかと考えていた。「冷凍食品は何時か必ず受ける。日本の食卓に革命が起きる」との木村の熱意は、53年に会社挙げてのプロジェクトとなった。最初に売り出したのは、開発が容易だった魚や野菜の冷凍食品だった。しかし、政府が失敗した配給品の悪いイメージが根強く残るマーケートからは完全に黙殺されてしまった。
頭を抱え込んでいた木村が、家で妻がコロッケを作っているのを見て閃いた。普段は肉屋で買ってくるコロッケを、ジャガイモを蒸して挽き、小麦粉をまぶし、パン粉をつけて揚げている。「手間の掛かるコロッケなどのメニューを冷凍にして、簡単に食べられるようにすれば必ず売れる。何時でも家庭で出来立てのコロッケが食べられる」
商品化するまでには幾多の苦難があり、ジャガイモの品種、衣にする小麦粉の品種などあらゆる種類を試した。そして悪いイメージを覆すために冷凍食品を保存食としてイメージアップする営業戦略も取り入れた。「時間を止める奇跡の技術。いつまでも新鮮さを保てますとのキャッチフレーズの実演販売に、主婦達は手軽な美味しさに心を奪われていった。
間もなく家電メーカーからは氷を作るだけでなく冷凍食品も保存できる冷凍冷蔵庫が次々と発売されるようになり冷凍食品のメーカーと供給メニューが急速に増えていた。

 社団法人 日本冷凍食品協会の調べによると、04年の冷凍食品国内生産量は152万6千トンとなっており過去最高を記録した。生産金額は 6730億円となっている。
財務省の貿易統計では冷凍野菜輸入量は 76万1千トンで、調理冷凍食品が 25万9千トン(貿易統計で把握されていない為、日本冷凍食品協会の調査)あり、国内生産量を足した 254万9千トンが国内の消費量とされる。調理冷凍食品の輸入は前年比 16.4%増加しており毎年増加傾向にあり、調理冷凍食品を加えた消費量の伸び率は 6.2%となっている。
国内生産量のうち業務用は 99万9千トン、家庭用が 52万7千トンとなっている。家庭用は 04年に初めて 50万トンを超えた。
品目別の生産動向を見ると、この5年間の上位 1位から 5位までは殆ど変化が見られず、
コロッケ、うどん(01年はピラフ)、ピラフ(01年はうどん)、カツ、ハンバーグの順となっている。最近ではシュウマイやその他米飯類(炊き込みご飯、おこわ、雑炊、白玉など)が大幅に増加している。子供のおやつ等にする菓子類やグラタン、パン・パン生地、ピザなども増加しており、フライや揚げ物類、未調理の魚類等は減少傾向となっている。
冷凍食品の消費動向統計を見ていると、冷凍食品が持つ特性が調理や食習慣を変え、食生活の変化が日本人のライフスタイルを変えていることが判る。

 10 月 18 日は「冷凍食品の日」です。86年に日本冷凍食品協会が、この日を冷凍食品のPRデーに設定した。冷凍(とう=10)と冷蔵食品貯蔵温度のマイナス18度を組み合わせから設定された。
冷凍食品は食品本来の品質・色・香り・歯触り・栄養と衛生状態を作りたての状態として長期の保存食とするために考えられた。生産・貯蔵・輸送・販売を通じてマイナス18度に保つことで品質が維持されている。製造後約1年は品質が保つことができるという。
冷凍食品については法律や規制・基準があり、包装には品名・源材料名・添加物・内容量・賞味期限・保存方法・試用方法・凍結前の加熱の有無・喫食時の加熱の必要性・製造業者名又販売者名と住所(輸入品の場合は原産国名と輸入業者名及び住所)・JASマークや認定証マーク・取扱や保存に関する注意事項の記載が義務づけられている。
又、包装をすることによって流通過程での汚染や乾燥・酸化から食品を守っています。
冷凍食品のメリットは、下ごしらえがしてあるので簡単に調理ができゴミの少量化をはかることができる。「保存性」が良く、種類も豊富で、価格も安定しているので計画性のある献立が立てられる。長期保存ができるのでまとめ買いができる省力性がある。
消費者包装がされており、低温で生産・流通しているので「衛生・安全性」に優れ、腐敗や食中毒の原因菌が繁殖できず、保存料を使用する必要もない。
冷凍する事で食品が劣化する「時間を止めた保存食」は家庭の食卓や、外食産業の安く・早く・安全な食事を提供するビジネスにも革命を起こした。
日本人のライフスタイルを変化させ一介の魚屋からの叩き上げであった木村鑛二郎の一旗揚げる夢は、のちに日本冷蔵の社長となって実現し、製氷事業しかなかった会社を大きく躍進させた今ではニチレイの冷凍食品を扱うフードビジネスを始め、低温物流事業バイオサイエンス事業、フラワー事業など多くの事業をかかえる大企業となっている。




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