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桃太郎のビジネスコラム 72

☆ 安心の「こくみトマト」☆

2005.10.25号  

 東関東自動車道の潮来インターを降りると、サッカーの鹿島アントラーズの本拠地、県立サッカー・スタジアムへ向かう国道 51 号線のバイパスがある。インターから 5 分ほどのところに道の駅いたこがあり晴れた日にはフリーマーケットなども開かれている施設内には近隣の名産品や土産物が売られ、地場で穫れた季節の農産物や蕎麦などの加工品も並べられており、食事ができるレストランも併設されている。
「道の駅いたこ」では平成 15 年度にレジを通過した利用客は 52 万人、トイレ利用や買い物をしない休憩利用者を会わせると 100 万人以上の利用者がいたという。
売上高は 6 億 4 千万円にのぼり、業績目標を達成したので、潮来市に 2 千万円の寄付を申し出たという。売上のなかで農産物のしめる金額は約 2 億円になると云い、商品を供給している中には、 1 千万円近く売上げる農家もあるらしい。施設内には商品を提供している農家のブースがそれぞれある。段ボールの板紙に生産者の顔写真が貼ってあり、商品名の下に栽培された地区や栽培方法などの説明が書かれている。
トマトなど野菜の価格は都内のスーパーなどよりも、少し高いが生産者の顔や栽培方法が判るのは安心感がある。消費者団体の調査によると、主婦が安全と感じた食品は 2 割高くらいまでは許容するとのデータもある。

 食の安全が叫ばれて久しい。最近のスーパーなどで売られている野菜には産地を表示しているものが多くなってきた。生産者の名前の表示があるものも偶には見かけるが、顔写真まで表示されているものは殆ど見かけることはない。
農産物の栽培方法も消費者としては関心が高いが、現在はスーパーで売られている野菜の殆どがF1品種であると云われている。F1品種とは一代雑種を意味する交配種の事で人為的に開発されたものである。一方、在来品種とか伝統品種と呼ばれる種子は、長い年月を掛けて環境に適応しながら種として生き延びてきた品種である。親から子へと品種として一定の特徴を受け継いでおり、こうした昔ながらの種子は固定種とも呼ばれている。生産者としては収穫量が多く病気にも強く安定的に供給が可能でスーパーやファーストフードビジネスでは成長が均一で日持ちが良く消費者としては美味しい野菜が好まれる。
大手種苗会社では、このような種子の開発競争が激化している茨城産鹿児島産アメリカからの輸入などと言っても同じ種苗会社の同じタネだったという事も珍しくない。
日本の二大種苗会社と云われている「サカタのタネ」と「タキイ種苗」は、現在トマト戦争の真っ直中にある。市場を席巻しているのはタキイ種苗の「桃太郎トマト」、対抗するサカタのタネは高度な遺伝子技術を駆使して「王様トマト」を開発した。

 愛知万博も好評のうちに閉幕した。今から 20 年前のバブル景気に突入した頃、EXPO ' 85 つくば万博が開かれた。会場には一本の樹に 1 万 2 千個の実をつけたトマトが出品されたこれは遺伝子工学から生まれたものではなく水と酸素と無機肥料によるハイポニカと呼ばれる水気耕栽培システムによってもたらされた。
ハイポニカ水気耕栽培は、普通の種子を蒔き、普通の温室施設で、太陽の光と水と人間の知的作業による栽培で、遺伝子変換やホルモン注入による変異などは使わず、植物自体の生命力を追求する技術である。
トマトと同じように一本の樹から 3 千 3 百本の実をつけるキュウリ、一株から 90 個もの果実をつけるマスクメロン、バラやカーネーションなどの花卉類も大輪に色濃く花を咲かすことができる。
開発者の野澤重雄は 1913 年に東京で生まれ、 39 年に東大農学部をでて台湾精糖勤務を経てプラスチック製造会社を設立。 62 年に水樹耕栽培ハイポニカの研究に取り組んだ。82 年に科学技術功労者として科学技術長官賞を受賞した。
野澤は南アメリカにある世界最大の大密林である大河アマゾンからヒントを得たと言う。地球の酸素の四分の一を供給している熱帯降雨林は、多少の雨では地表に達する前に樹林に取り込まれてしまうほど、植物の密生地帯だといわれている。そしてアマゾン流域の大緑地帯は、農業的観点からいうと表土は無いに等しい状態といわれている。
アマゾンは光と水と大気だけで植物が生長できる事を壮大な規模で啓示している。

 トマトケチャップやトマト調味料のトップブランド「カゴメ」でも、ハイポニカ栽培と同様なトマト生産システムを独自開発している。土を使わないロックウール溶液栽培で、トマトが常に光をいっぱい受けられるように、成長した樹は誘導フックで吊されて、移動しながら生育管理や収穫が出来る植物工場、ハイテクグリーンハウスで栽培している。
トマトの樹の高さは15から20辰砲發覆一本の樹から 10 ヶ月間収穫出来るという。ハウスの暖房にはクリーンエネルギーである液化石油ガスを使用し、燃焼ガスの二酸化炭素は光合成に再利用して排出量の抑制をしている。
環境への配慮や、生産効率と安全性などの農業が抱える課題にも積極的に取り組み、農薬などは最小限に抑え、交配にはマルハナバチを放ち自然受粉をおこなっている。
カゴメは 1899 年の創業以来、100 年以上も一貫してトマト加工品に取り組んできた。種子も遺伝子組み替えでなく独自の専用品種を開発している。
1999 年に本格参入した生鮮トマト「こくみトマト」は、桃太郎より少し小ぶりの中玉タイプで、生食でも加工しても美味しい果肉のしっかりしたバランスのとれたトマトである。 栽培は自社のハイテクグリーンハウスや契約農家と、品質・生産者・栽培方法・使用する農薬や量などが厳密に管理され、独自の栽培規格や品質規格に基づくことを徹底している。流通も既存の生鮮野菜流通に頼らない独自のシステムが確立されており、菜園で真っ赤に熟してから新鮮なまま消費者に届くように、物流拠点の整備がなされている。
独自開発した「こくみトマト」の生産拠点は、直営と契約農家合わせて全国に 40 ヶ所あり、昨年度は約 7 千トンを全国のスーパーなどに出荷した。今年は 1 万 2 千トンに達する見込みで、国産トマト全体の 2 %近い出荷量になるという。
植物工場で生産される野菜の多くは、一般的な露地モノやハウス栽培モノに比べて割高ではある。しかし、昨年は台風被害が相次ぎ、野菜小売価格調査( 04 年 11 月第 3 週)ではレタスが前年比 3.7 倍、トマトが 1.5 倍にもなった。工場で生産された野菜には価格変動が少なく価格の逆転現象があった。カゴメでも「太陽光による栽培ですが、天候を理由に販売価格を改定したことはありません」とコメントしている。
消費者が安心して食べられる、安全で品質の良いトマトなどの野菜が価格的にも数量的にも安定して供給されることは、消費者にとっても望むところである。




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