ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 87

☆ 母と娘のブランド☆

2006.02.14号  

 ジャンヌ・ランバンは1867年にフランス・ブルターニュで生まれた。1800年代後半から1900年代の初め頃は、女性が外出するときには帽子を被ることが一般的な時代であった。ジャンヌは13才でパリの帽子店に入って仕事を学び、1888年にサントノレ通りに帽子店を開店した。彼女がデザインした帽子は、洗練されたセンスの良さが人気を集め、多くの女性ファンを惹きつけた。その後、娘のマリー・ブランシュのために縫い上げた子供服が評判となり、帽子を買ってくれていた顧客からも「自分の娘のために縫って欲しい」と注文が相次ぎ、1890年には婦人服や子供服のクチュール・メゾンとして発展していった。彼女のデザインは故郷の民族服、趣味として集めた銀板写真やファション・プレートからの影響が大きく、エレガントなローブド・スタイルや刺繍を駆使したピクチャー・ドレスを相次いで発表。彼女が好んで使用した深い青色は「ランバン・ブルー」と呼ばれた。1925年に香水部門、26年には甥のモーリス・ランバンを社長にして紳士服部門を立ち上げた。46年のジャンヌ・ランバンの死後はポリニャック伯爵夫人となった娘らに引き継がれ、上流階級の人達の衣裳も手がけるようになった。浮沈の激しいパリのファション界にあって19世紀に創設されて、今なお健在というメゾンはランバンだけである。現在はベルナール・ランバンがオーナーになっており、主任デザイナーはイヴ・サンローランからスカウトしたアルベール・エルバスが就任し、ブランドの注目度も高まっている。

 ランバンはオートクチュールで、初めて香水を売り出した店でもあった。ランバンの「アルベージュ」はシャネルの「NO.5」やエルメスの「カレーシュ」と並び称される名香である。アルベージュ(和音)は1930年に娘マリー・ブランシュが30才を迎えたプレゼントに作ったと云われている。アルベージュのボトルにあるシャンヌとブランシュ母娘の絵はファッション・イラストレーターのポール・イリブが描いたもので、ランバンのブランド・マークとして今に受け継がれている。アールデコ期(1910年頃から1930頃にかけて、パリを中心として栄えた装飾美術)は女性ファッションが大きく変貌した時期であった。1908年にオートクチュール・デザイナーのポール・ポワレがポール・イリブに書かせ、有力な顧客にのみ配布されたわずか10図ほどのシルエットを描いた小冊子がきっかけであった。「ポール・ポワレのドレス」と題された作品集は、ファッション誌がファッションの流行を作るきっかけになったとも云われている。ポワレは女性の躰を締め付けていたコルセットを外し、自由に動けるドレスをデザインした。ドレスの色彩も、それまでは品がないと云われていた派手な原色も取り入れた。イリブが描く女性の自由なポーズは、それまでの型にはめられたポーズとは異なる斬新なファッション・イラストであった。現在のような写真技術が無かった時代に、革新的なイラスト集の配布は、ファッション界に顧客の関心を惹きつけることにもなった。ランバンの母娘のシルエットは、ファッション界を変貌させた、人気イラストレーターの作品でもあったのだ。

 ランバンは国内でも直営店やデパートなどのインショップで展開されていたが、2001年にフランスの投資会社がロレアルから買収し、世界的な事業展開を進めていた。アジア地区でのパートナーとして伊藤忠商事がランバン・ブランドの独占輸入販売権とライセンス管理権を得ると共に、ランバン社株式を業務提携の証として僅かだが取得していた。伊藤忠商事は昨年の12月にランバン・ビジネスを、新しい体制で強化拡大する事を発表した。カネボウの子会社であるカネボウ・サンディジェーム社との、サブライセンス契約を終了し、「ランバン・コレクション」のレディース・ウェアーはライカ、「ランバン・スポール」のレディース・ウェアーはデサントとサブライセンス契約を結んだ。ライカではカネボウ・サンディジェーム社が培ってきた高級夫人プレタポルテのモノ作りノウハウと人材を引き継ぎ、専任の事業部を立ち上げレディス分野強化の戦略ブランドとして、売上規模の拡大を目指している。デサントはすでに「ランバン・スポール」のメンズ・ウェアーを展開しており、今回の事業継承で「ランバン・スポール」のフルライン展開になる。国内におけるランバン・ビジネスの市場規模はサブライセンシー19社、インポートを加えて約270億円となっている。今回の新しいパートナーへの移行を機に「ランバン・パリス」「ランバン・コレクション」「ランバン・スポール」「ランバン・オン・ブルー」の4本柱を強化して5年後には350億円の市場規模を目指している。

 ランバンのアジアにおける旗艦店として位置づけられている「ランバン・ブティック銀座店」は2年前に銀座中央通りにオープンした。アルベール・エルバスがディレクションした世界初のショップである。日本に住んでいるフランス人の邸宅をイメージして「モダン」「トラディショナル」「ウォーム」「エモーション」をコンセプトにしたという。総面積858平米の3フロアー構成である。1階のレディス・フロアーはファーストラインのプレタポルテ、バッグ、シューズなどが並んでいる。「オペラ」と名付けられた真紅一色のフィッティング・ルームなど、ゆったりとした空間で高揚感を満たすショッピングを楽しむことができる。2階はメンズのファーストラインのほか、メンズスーツのオーダーサロン、レディス&メンズシャツ、そしてVIPサロンも用意されている。3階はランバン・コレクションとスポーツ・ウェアーのランバン・スポールが充実。2006年春夏コレクションでは帯感覚のベルトといった「和」にヒントを得たファションを発表しており、パリの最新の雰囲気を伝えている。(パリのファション業界の言葉や仕組みは、既号063.ディオールのシルエットにあります。)


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