ブランドに学ぶ 儲けを生みだすビジネス・コラム

桃太郎のビジネスコラム 89

☆ ヒルズブラント☆

2006.02.28号  


 東京のファション・ブランド・ストリートである表参道に複合施設「表参道ヒルズ」の商業施設部分が建国記念日の2月11日にオープンした。海外高級ブランドの主力店をはじめ93のテナントを集め、ファション・ブランド街に新たな彩りが加えられた。
オープン前には2000人近い行列ができたため、予定より15分早い10時45分に開場した。
オープンに合わせて限定商品を用意した店舗もあり、買い物客などで初日の来場者数は7万人を超え、初年度は1000万人以上の来場者数と150億円の売上を見込でいると報道されている。
新業態を試みる企業が旗艦店を出店しており、ここにしかない個性的な店舗が並んでいる。
地上3階、地下3階の吹き抜けの施設は、緩やかな勾配のらせん状スロープを歩いて店舗を廻る設計になっており、建物の中にもう一つの表参道をイメージしているという。
敷地は関東大震災のあと、近代的集合住宅のモデルとして建てられた歴史的建築物であった「同潤会 青山アパート」の再開発事業であった。表参道のトレードマークである欅並木の高さに合わせた低層建築で、建物の一部を元のアパートと同じに再現したり、大規模な屋上緑化や雨水を利用する建物周辺水路など隠れた部分にも工夫が凝らされているという。

 テナントがビジネス・ターゲットとしているのは 30才代から40才代前半の「マイナス10才のマインドを持つ“O・TO・NA(オトナ)”たち」だという。
レディース・ファションの店舗が中心のようだが、メンズ・ファションやカフェなども多く、ここに来なければ見られないようなアンテナ・ショップもある。ユニークなテナントをいくつか紹介してみよう。
「BEYES (バイズ)」はソニーの関連会社が運営しており、個性的なこだわりのメンズ衣料や小物、玩具のインターネット通販の人気ショップが初のリアル店舗を出店した。
「dan genten (ダンゲンテン)」銀座や元町でレディース革製品を扱っていた専門店が初のメンズ・ショップとして出店。店舗内工房で自然素材を職人が手作り加工する。
「KYOSHO OMOTESANDO (キョウショウ オモテサンドウ)」ミニカーやラジコンカー大手の京商がプロデュースする初のサーキット・バー。仕事帰りに一杯飲みながらレースを楽しむ。ラジコンは 15分500円でレンタル。もちろん販売もしている。
「DELFONICS (デルフォニクス)」自由が丘の文房具メーカー。オリジナルと輸入品で渋谷パルコに次いで2店目。表参道ヒルズ店オリジナル・グッズなども揃えている。

 表参道ヒルズは21世紀臨調特別顧問で世界的な建築家である安藤忠雄が設計した。
安藤は双子の兄として1941年に大阪で生まれた。府立城東工業高校を卒業後、欧米やアジア、アフリカを旅行しながら独学で建築を学ぶ。
イェール大学、コロンビア大学、ハーバード大学の客員教授を歴任。東京大学工学部教授に就任したのち、2003年に定年退官して名誉教授となり、05年には東京大学から特別栄誉教授の終身称号を授与された。ローマ大学から名誉博士号も贈られている。
受賞歴も輝かしく国内では、日本建築学会賞、日本芸術院賞、第8回高松宮殿下記念世界文化賞、京都賞など多数受賞しており、03年には文化功労者として顕彰された。
海外においてもフランス建築アカデミー大賞、イギリス王立英国建築家協会ロイヤルゴールドメダル、フランス文学芸術勲章叙勲、アメリカ建築家協会コールドメダルほか多数。
代表作はスペインの「セビリヤ万国博覧会日本政府館」大阪の「サントリーミュージアム 天保山」パリユネスコ本部「瞑想空間」アメリカ・セントルイス「ピューリッツァー美術館」アメリカ・フォートワース「フォートワース現代美術館」など国内外に多数の実績をもつ。
これだけの華々しい経歴は安藤忠雄自身の才能が、既にブランドとしての価値を有している。ちなみに3兄弟の双子の弟と末弟も共に建築関係の仕事をしている建築一家である。

 表参道ヒルズはアークヒルズ、愛宕グリーンヒルズ、元麻布ヒルズ、六本木ヒルズなどを開発した森ビルによる再開発事業であった。
近年は人・モノ・金・情報が国境を越えて魅力ある都市に集中しており、国際的にも都市の重要性がますます高まっている。高度に集積された都市はさまざまな価値観や優れた感性、文化、情報が集まりビジネスにも欠かせない都市型文化を育む舞台となっている。
森ビルのビジネス・ドメインは建物や空間といったハード部分のみならず、アート、ファション、食、住、憩い、学、健康などの都市を舞台としたソフト部分や街全体をマネージメントするように広がっている。
東京初の大型再開発事業であったアークヒルズは複合施設型再開発の原点と云われている。1986年にオープンしたアークヒルズは17年の月日を費やして、500軒以上の地権者達と調整を取りながら進めた。土地買収のスタートは一軒の銭湯跡地から始まったと云われる。
インターネットのビジネスユースなどは考えられない時代に、情報ラインを完備させたリンテリジェンスなオフィスビル、都市型高級ホテル(現在のテナントは全日空ホテル)、高級賃貸マンション、そして都内有数のエンタテイメント・ホール(サントリーホール)を設置するなど文化面にも充分に配慮された都市開発であった。
原宿のランドマーク「ラフォーレ原宿」も森ビルによる開発であった。原宿や表参道周辺の情報をラフォーレ発として発信。多くのアパレル・ブランド、クリエーター、アーティストなどを輩出している。インベストスペース「ラフォーレ・ミュージアム」と連携して、一つの商業施設としてだけでなく、新しいムーブメントを生み出す、原宿を象徴する存在としてさまざまな情報を発信している。
デベロッパーとして多くのオフィスビル開発やアークヒルズ、ラフォーレ原宿などの開発ノウハウが六本木ヒルズや表参道ヒルズの開発に生かされている。
最近は「ヒルズ族」なる言葉が流行しているが、「成り上がり者」的な意味合いも持つともいわれ、森ビルの開発物件は高級志向を批判されることも少なくない。テナントの賃料も高く入居審査も厳しいと云われる反面、森ビルにオフィスを構えるのはステータスであり、企業の信用面でもそれなりの評価があると云われている。
森ビルは賃貸ビル数127棟、入居会社数2200社を誇り、国内屈指の総合デベロッパーである。時代の先を読んだ総合的な街造りと話題創り、情報発信力には定評があり、「第○○森ビル」「ラフォーレ○○」「○○ヒルズ」それぞれは既にブランドと化している。




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