桃太郎のビジネスコラム 35

☆ トレンチ・コートとボギー ☆

 1851年にジョン・エマリーという男がロンドンのリージェント街に小さな高級紳士服の店を開いた。高級なスーツやオーバーコートを販売する傍ら、それまで誰も手がけていなかったウールの防水加工に取り組んでいた。羊の毛は元々油成分を含んでいて水をはじく性質を持っており、製糸するには衛生上の問題もあり脱脂する必要がある。そのためウール地は少しの水分でも吸収してしまう欠点があった。エマリーは1853年に雨をはじき柔らかくしなやかな天然素材の開発に成功した。この生地で仕立てたレインコートがビクトリア時代の伊達男達に最先端のファションとして大いに支持された。粋がる男達は晴れた日にも身にまとったそうです。1854年ロシアとオスマントルコが戦うクリミア戦争では、極寒の地ロシアで防水コートが将校達に大好評だった。
ラテン語の「水=Aqua」と「盾=scutum」を組み合わせた造語のアクアスキュータムAquascutumブランドの誕生である。

 1910年代に入り、防水加工のされた婦人物コートの生産も始めた。第一次世界大戦が始まり各地で塹壕戦がくりひろげられた。塹壕(トレンチ)の中での過酷な任務にも耐える優れた防水性は戦地のイギリス軍将校達に激賞された。17年戦地にいる将校から「貴社のコートには本当に満足しています。どんな状況でも全く水を通すことが無いからです」との手紙が寄せられたと云う。
トレンチ・コートは一次大戦後、新しいファションとしてブームを巻き起こした。
映画の世界でも「ウチのかみさんがね〜」と云う小池朝雄の吹き替えで大人気を博した「刑事コロンボ」のピーター・フォークもよれよれのトレンチ・コートを着ていた。「ピンク・パンサー」のクルーゾー警部を演じたピーター・セラーズはトレンチ・コートがトレードマークにまでなっていた。最近の日本映画でも「踊る大走査線」で老刑事役を演じたいかりや長介もシングルのトレンチ・コートを着ていた。
そしてトレンチ・コートの格好良さの極め付きは42年に作られた「カサブランカ」のラストシーンで恋人のイルザ(イングリット・バーグマン)を亡命させた後、リック(ハンフリー・ボガート)と、それまでビシー政権の指揮下にあった警察署長(クロード・レインズ)が「やっと本当の友達になれたな」と歩きながら霧につつまれた空港を後にしていくシーンでした。

 1月14日はボギーと呼ばれていたハンフリー・ボガートの命日でした。大酒家でヘビースモークがたたったのか57年に食道ガンに侵され享年57才で亡くなった。ボガートは身長173pのアメリカ人としては小柄な俳優でした。若い頃はあまり売れなく、演技が認められ出したのは30才半ばを過ぎてからで、ハードボイルドなギャング・スターとして人気を得るようになった。1899年 12月25日の生まれとなっている。舞台や映画でも主演した「化石の森」の脱獄殺人犯のような悪役が多かったので「キリストと同じ誕生日である人が、出演作で演じるような極悪非道の人間であるはずがない」と映画会社の広報部の人がクリスマスの日にしたと云われている。本当は1月23日との説がある。
3度の離婚後45才で24才年下のローレン・バコールと結婚した。結婚した女性の中では一番気肌のあったバコールとは一男一女が授り、ハリウッドきってのハードボイルドカップルと云われたおしどり夫婦だった。バコールの自伝「私一人」によると、亡くなる日の朝に仕事で出かけるバコールに、映画「脱出」で共演した時の名前で「バイバイ、キッド」とベッドで言ったのが、そのまま永遠の別離になったそうです。
「トレンチ・コートにソフト帽と言えばボギー」と云われるくらい格好良かった。決して二枚目的スターではないが、トレンチのベルトの縛り方やソフトを少し傾けたかぶり方もオシャレでキザだけれどとても良く似合っていた。ニヒルで渋いダンディさはハードボイルド映画の原型となり、ボギー・スタイルを知らしめた「マルタの鷹」で演じた私立探偵サム・スペードによく表現されている。
前述の「カサブランカ」や「モロッコ慕情」、トレンチ・コート姿が最後となった「裸足の伯爵夫人」など数々の映画でボギーのトレンチ姿を見た。
その他にもオードリー・ヘップバーンと共演した「麗しのサブリナ」、精神に異常を来した駆逐艦船長を演じた「ケイン号の反乱」、悪役としてのキャリアを見せつけた「必死の逃亡者」、そしてキャサリン・ヘップバーンと共演して、酔いどれ船長を演じた「アフリカの女王」では51年にアカデミー主演男優賞を受賞した名優であった。

 アクアスキュータムの名を知らなくても、世界中で愛用されるようになったトレンチ・コートを知らない人はいない。遡ること 100年以上も前に、オシャレだったエドワード王子(後のエドワード 7世)は水を弾くコートに魅せられ、1897年に王室御用達の勅許状を与えた。エドワード 7世の孫にあたる、のちのウィンザー公や皇太后陛下からも勅許状を賜りイギリスを代表するブランドとなる。
53年にエベレストを征服した登山家ヒラリーが着ていたジャケットは木綿とナイロンを混紡して造られ、時速100マイルの風速に耐えられる素材だった。これをレインコートの布地として使うなど、創業時の研究心が引き継がれている。
多くのブランド・メーカーはイメージ戦略として内外の著名人達に着用して貰うが、アクアスキュータムの場合は著名人達が「本物の良さ」を認め自ら着用している。
日本での展開は 60年代になってからであった。90年にレナウンが買収し、現在の売上高は約500億円で、日本国内で約半分を売り上げている。
多くの服飾のブランド・メーカーではデザインは本国で行い、縫製は東南アジア等の人件費の安い地域で生産しているが、アクアスキュータムでは敢えてイギリス国内に生産拠点を残し、品質の維持管理に努めている。サブ・ライセンスは 21社にものぼり、婦人服を含めたアパレルは勿論のこと、眼鏡、筆記具、靴、寝具、ジュエリーなども手がけ、時計のシチズンからはアクアスキュータム・ウオッチを展開している。昨年 9月にはロンドン本店を 47年ぶりに全面改装し、グローバル戦略の中心と位置づけ、日英が連携してブランド発進力の強化に邁進している。

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